#232
――ミックスは病院のベットで目を覚ました。
もはや慣れ親しんだ光景であるため驚きはない。
季節はすでに秋で、今年の四月に戦災孤児の学校へと入学してからは、病室は彼にとっては第二の我が家といえる。
「あッニコ、おはよう……でいいのかな?」
ベットの傍にあったパイプ椅子には電気仕掛け仔羊ニコがいた。
ニコは痛みで顔を引き
そして、ニコはパイプ椅子からピョンっと降りると持っていた紙をミックスへと渡した。
それは、ミックスの通う高校の教師――アミノからの手紙だった。
『ミックスくんへ――。単刀直入に伝えます。あなたの出席日数は足りません』
アミノからの今どき手書きで書かれたとても
どうやら彼はこれまでの入院やらその他もろもろの欠席せいで、学校の出席日数が足りなくなってしまったようだ。
このままでは確実に
そんなミックスの体をトントンと叩いたニコは、もう一枚の紙を出してきた。
「まだなにか悲しいことがあるのか……。今の俺にはジャズの頭突きにさえ痛みを感じない自信があるよ……」
もう一枚の紙もまたアミノからのものだった。
どうやら伝えたい内容が一枚では収まらなかったらしい。
「え~となになに、しかし、土日祝日や冬休みも学校へ出てくれば、なんとか進級させてあげられるでしょう……って、まさか……これから俺に休みがなくなるってことッ!?」
ミックスはアミノの
まるで
「でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」
いつもの
そこへコンコンコンとノックをする音が聞こえ、二人の人物が入って来る。
「あッ先輩が起きてる」
「なんだか
ウェディングとクリーンだ。
制服姿のため、おそらく学校帰りにお見舞いに来たのだろう。
それにしても、あのロウルとの
二人は
ロウルを倒した後、全員が安心感からか動けなくなり、ブロードが全員を運んでくれたこと。
それから二人を家に届けた後に彼はヘルキャットとアリアと共に姿を消してしまったこと。
そして、次の日の朝に電子郵便がウェディングとクリーンに送られてきて、すでに三人は、このバイオニクス共和国から出発したことが伝えられたそうだ。
「そうかブロードさん、ヘルキャットとアリアも帰っちゃったのか……」
すでに憔悴状態からは
彼は、ヘルキャットとアリアとはまだ顔を合わせて話ができていたが、ブロードとは戦いの最後にその姿を少し見かけたくらいだ。
挨拶もなく帰ってしまった、自分を守ってくれた三人にお礼くらい言いたかったとぼやいている。
「大丈夫ですよ先輩! 三人とはメール交換していますから、いつでも連絡取れます!」
「それに、今度は私たちがストリング帝国へ行ってもいいんじゃないですか? いろいろと課題は多いかもしれませんが、ジャズさんにお願いすればなんとかしてくれるかもしれません」
「そうそう! 姉さんに頼めばすぐに三人に会えますよ!」
ウェディングとクリーンはミックスを励ますように声をかける。
これで終わりではない。
また必ず会える。
今度は戦いのない日常で一緒に食事やお茶をすればいいと二人は言葉を続けた。
「そうだよね、また会えるよね。……そういえばあの長髪パーマの……ロウルさんはどうなったの?」
「あの程度死ぬようなおじ様ではありません、しかし、さすがにしばらくは襲ってくる心配はないでしょう」
「それにまた向かってきてもみんなで追い返しちゃうから大丈夫ですよ」
クリーンとウェディングの言葉にミックスは
これでしばらくは平和な日常が戻るはずだ。
ジャズがストリング帝国から帰ってきたら、早速自分たちが帝国へ行けるか頼んでみよう。
学校は休めないが、そこはアミノにお願いして社会見学ということにしてもらおう。
ミックスはそう思って微笑んでいると、あることを思い出した。
「ねえ……二人にさ。ジャズからなにか連絡来てる?」
ウェディングがニコっと悪意のある笑みを浮かべると、クリーンが手で口元を隠しながらクスクス笑う。
「もちろんです。ミックス先輩に対して物凄く怒ってましたよ」
「ウェディングのいう通りです。私の知る限りでは、これまでのジャズさんの最大級の
それを聞いたミックスの顔が青ざめ、再び憔悴してしまった。
フラフラとベットに倒れ、何かブツブツと
「ヤバい……殺される……せっかく助かったのに今度はジャズに殺される!」
そんなミックスの姿を見ながら二人は笑い、ニコが今日二度目の大きなため息をつくのであった。
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