#230

ブロードは三人を置いて飛び込んでいく。


すでに、普通の人間がマシーナリーウイルスの適合者と同じ力を得るための腕輪バングル――効果装置エフェクトは壊れてしまっていたが、彼はナイフ一本とインストガンのみでハザードクラス二人の戦いへとその身をとうじた。


三人はそんなブロードの背中を見ながら、自殺行為だと思っていた。


もはや次元が違うのだ。


人間を――いや特殊能力者さえも超えた激闘げきとうが繰り広げられているのに、力を持たない者が入って行くなどあり得ない。


だが、それでもブロードに迷いはなかった。


せめて、ウェディングの盾になるくらいはなれるとでも考えているのだろう。


一瞬でもいいからロウルのすきを作ってやろうとしているのだ。


動けない三人の少女とは違い、ブロードはの心はまだ折れていなかった。


「うおぉぉぉッ!」


まさに特攻というべき勢いでロウルへ電磁波を撃ちながら進むブロードに、ウェディングが気が付く。


ロウルは目の前の彼女を蹴りで後退させると、そのままブロードへと向かって行く。


「あれだけの力の差を知ってまだ向かってくるか! お前さんこそ本物の兵隊だよブロードッ!」


「なんでもかまわんッ! 任務を遂行する! そして、あいつの仲間も守るッ!」


ブロードは拳を振り上げて飛んでくるロウルへ、再び電磁波を撃つ。


だが、倒れない。


けして怯まない。


この程度でハザードクラスを倒せないことはわかっている。


怪物を倒すのは自分ではない。


それでいい。


自分がおとりになってロウルの隙を作るだけいい。


ブロードはインストガンを捨てて、ナイフを構える。


当然こんなもので太刀打ちできるとは思っていない。


しかし、この隙を突いて舞う宝石ダンシング ダイヤモンドの攻撃に繋げることができれば――。


そう、ブロードが覚悟を決めたとき。


彼とロウルの間にウェディングが割り込んでくる。


そして、ロウルの拳をその両腕が防ぐ。


「なにしてるんですかッ!? 反撃してくださいッ!」


ウェディングの言葉を聞き、慌てて彼女のかげからロウルへナイフを突き立てたブロード。


ロウルはそれを頭突きで振り払ったが、ウェディングに蹴り上げられて後退する。


「ジャズ姉さんの叔父おじさん、ブロードさんですね」


「俺を知っているのか?」


「もちろん! 姉さんからよく聞いてます。それと――」


ウェディングはロウルから目を離さずに、突然声を張り上げた。


まずヘルキャットとアリアの名を叫び。


二人がジャズの友人であることを知っていることを伝える。


「小さくて生意気なヘルキャットさんと背が高くておっとりとしたアリアさんでしょ!? 二人のことも姉さんからよく聞いてるよッ!」


そして、次の彼女が口にしたのは――。


「クリーンもそこにいるんでしょッ!?」


彼女の親友――クリーン·ベルサウンドの名だった。


ウェディングは声を張り上げ続ける。


「三人ともいつまでも見てないで助けてッ! 私とブロードさんだけじゃこの強いおじさんを止められないッ!」


張り上げたウェディングの声で、クリーン、ヘルキャット、アリアの表情が変わっていく。


ヘルキャットとアリアはインストガンを構え直すと、二人の元へ走っていく。


そしてクリーンは涙をぬぐいながら、カタカタと震える白と黒の刀――小雪リトル スノー小鉄リトル スティールへ語り掛けた。


「私はとんだたわけ者でした……リトルたち、また力を貸してくれますか?」


彼女の問いに、リトルたちはその刀身を輝させて返事をした。


クリーンはコクっとうなづくと、ヘルキャットとアリアの後を追いかける。


その様子を見ていたロウルは何故かクスっと微笑んでいた。


内心で喜んでいるのだろう。


敵が増えただけだというのに、彼の行動は不可解だった。


「それが正解だぜ……。ダイヤモンドのじょうちゃん……」


そして、誰にも聞こえないような声でつぶやいていた。

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