#219

深夜の路上に破壊音が鳴りひびいた。


呪いの儘リメイン カースであるロウルと、ただの人間であるブロードたちでは圧倒的な身体能力の差がある。


肉眼でとらえることができないほどの速度でこぶしを振るったロウルは、その屈強な体が膨張ぼうちょうするほどすさまじい一撃を放った。


だが、そのすべてを吹き飛ばすような攻撃をクリーンが小雪リトル スノー小鉄リトル スティール二刀で受け止めてみせた。


「腕を上げたな、クリーン」


はたから見れば、華奢きゃしゃなクリーンの身体が日本刀ごと粉々こなごなに吹き飛ばされなければおかしいだろうが。


彼女は二本のかたな――いや、神具から加護かごを受けた奇跡人スーパーナチュラル


超常現象的能力の格でいえば、ロウルよりも上だ。


「御冗談を、まだまだこんなものではありませんッ!」


クリーンは、拳と刀の鍔迫つばぜり合いでロウルの巨体を押し返す。


力づくで後退こうたいさせられたロウル。


そこへ彼の左右から電磁波が飛んでくる。


先ほど走り出していたヘルキャットとアリアが、ロウルを囲むようにしてインストガンを撃ったのだ。


ロウルはこれを両腕ではじき飛ばすと、目の前からブロードが突進して来ていた。


効果装置エフェクトッ!」


効果装置エフェクトとは、普通の人間がマシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃと同じ力を得るための腕輪――バングル


使用することで皮膚の表面を機械でおおい、身体能力を上げ、さらに高出力のエネルギーであるディストーションドライブを放てるようになる。


ブロードの叫び声と共に、彼の振り上げた腕が白いよろい甲冑かっちゅうのような装甲をまとう。


だが、ロウルは驚かない。


それは、一度ブロードと戦って彼を打ち倒しているからだった。


「そんな即席インスタントじゃ俺は倒せねぇよ」


余裕で言うロウルだったが、次の瞬間――。


ブロードの背後から、もう一人の人物が飛び掛かって来ていることに気が付いた。


白髪の和装少女――クリーンだ。


何十年も過酷かこくな戦場をくぐり抜け、血のにじむような鍛錬たんれんとたしかな経験に裏打ちされた技術。


さらには、呪いの儘リメイン カースとしての力も有しているロウルでも、適合者てきごうしゃと同等の力と奇跡人スーパーナチュラル二人を相手にするのは少々分が悪い。


ロウルはややまゆをひそめたが、それでもその表情にあせりやおびえはなかった。


「……だが、それでもまだ俺のほうが上だ」


向かってくる二人にロウルは反撃。


まず機械化した拳を振るったブロードへ蹴りで払い、次にクリーンの二本の刀を弾き返す。


ブロードはこのぐらいで止まってたまるかと続けて飛びんでいこうとしたが、蹴りによる衝撃が今頃になって伝わり、体がけ反る。


ひるんだブロードへ二撃目が振るわれたが、クリーンが刀でその軌道をずらし、その間に後退。


少し離れた位置いるヘルキャットとアリアもインストガンを撃ちで、二人が無事に下がれるように支援攻撃をした。


二対一、いや四体一でもロウルのほうがまだまだ力が上だということが、今の攻防こうぼうでわかる。


「……やはり、そう簡単にはいきませんね」


「適合者並みの力と奇跡人スーパーナチュラル二人なのに、なんなのよあいつッ!?」


「化け物よりも化け物……ということですか。しかもあの戦い方……人外じんがいでありながらも聡明そうめいな達人です」


「ふん、このくらいは想定の範囲内だ。仕掛けるぞ」


表情をくもらすクリーン、ヘルキャット、アリア三人に、ブロードが静かに言った。

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