#218

先ほどの宣言通り――。


自分と戦うつもりなのだと、ロウルは白髪の少女を見て理解した。


クリーンからはすさまじい剣気が放たれている。


けして殺気ではないが、それはそのまま彼女の覚悟を表していた。


「お前が二刀流だったとは知らなかったよ」


元来がんらい、母が昇華しょうかしたベルサウンド流は二刀です。兄と私は元々はこっちのほうが得意なんですよ」


すでに、いつも連れている二匹の犬――小雪リトル スノー小鉄リトル スティールは彼女のにぎる日本刀へと姿を変えている。


ロウルはそんなクリーンに、彼女の亡き母親――クリア·ベルサウンドの姿を思い出していた。


最もロウル自身も、クリアのことは残されていた画像や映像でしか知らないが。


二本の刀をかまえるクリーンは、世界を救った英雄の一人であるヴィンテージを彷彿ほうふつとさせた。


そんな彼女の後ろには、深い青色の軍服を着た男一人と少女二人。


ストリング帝国の軍服姿のブロード·フェンダー、ヘルキャット·シェクター、アリア·ブリッツの三人である。


わざわざ変装を解いて現れた彼らからも、クリーンと同質の覚悟を感じさせた。


四人の男女を前にロウルは思う。


表情が違う。


雰囲気が違う。


そして何よりも、自分たちの勝利を確信している目をしている。


「おい、そっちの男。えーと、たしかブロード·フェンダーだったか?」


「ッ!? 大佐たいさを知っているのッ!?」


ヘルキャットが声をあげるとロウルは答える。


「ああ、この国で会う前に、二、三度戦場で会っているはずだ。大佐になってたんだな。それと、君ら二人はヘルキャット·シェクターとアリア·ブリッツだろ? たしか少尉しょういだったか?」


「私たちのことまで知っているんですかッ!?」


今度はアリアが口を開いた。


それからロウルが言葉を続けるに――。


彼は一度戦場で向き合った相手と自分が殺した相手の名は、できるかぎり知る努力をしているという。


「ストリング人にはファミリーネームがあるから覚えるのに一苦労ひとくろうしたがな」


「礼儀や鎮魂ちんこんのつもりか?」


ブロードが訊ねるとロウルは笑った。


その笑みは、少し自嘲じちょう気味ぎみな笑みに見えるものだった。


「そんなんじゃねぇよ。だが、わざわざ人に話すようなことじゃない」


そして、笑っていた彼の顔が冷たいものへと変わっていく。


すると、地面が少しずつふるえ始めた。


それを見たブロードたちは、どうやら先ほどの戦いでは、かなり手加減されていたことを理解する。


「それでブロード、一応お前さんが大将みたいだし、訊いておきたいんだが……って、名前で呼ぶけどいいよな?」


「別に構わんが。なんだ?」


冷たい表情で穏やかな口調で話すロウル。


ブロードはそんな彼のことを不可解に思いながら返事をした。


「クリーンの話じゃあの少年は寝てるんだろ。だったらお前さんが代表して決めてくれよ」


「ミックスからお前に、何か重要なものを渡すように説得しろという話か?」


「そうだよ、その話だ」


「なら、わかるだろう。こちらは守るのではなく攻めに出ていることで」


「……俺としてはさっきの戦闘で終わりにしたかったんだけどな」


そう言ったロウルは、ブロードたちのほうへとゆっくりと歩き出した。


それに反応し、前にいたクリーンのとなりに並ぶブロード。


そして、ヘルキャットとアリアは並んでいる二人を軸に左右へと走り出す。


「来るぞッ! 全員作戦通りに動けッ!」


そのブロードの叫びが、戦いが始まるときに鳴らす銅鑼どらの代わりとなった。

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