#217

現れた戦闘用ドローンであるナノクローン四十四体を打ち倒し、バイオニクス共和国を象徴する管制塔――アーティフィシャルタワーの前から移動していたロウル。


その戦闘はものの数十分で片が付き、まだまだ数にまさるドローンの集団だったが撤退てったい


ロウルとナノクローンの実力差に、共和国上層部がこれ以上の戦闘は無意味と判断したのだろう。


結果は、最初に向かい合ったときに、ロウルが言った通りになった。


あの人の形をした鉄のかたまり一体にかかる費用を知っていた彼は、金の無駄づかいだと苦笑くしょうする。


「……もっと他にあんだろうが。金で解決できることはよ」


ロウルはポツリとつぶやいた。


それは、彼が共和国を離れて、世界中を見て回っていたことから来る考え方だった。


七年前の戦争――アフタークロエ以降で、ストリング帝国に共和国が勝利したことによって、世界中の国へ帝国の持っていた科学技術が広められた。


それは今でも素晴らしいことだったと思う。


技術の共有は、ロウルがまだ共和国にいた頃に推進すいしんしていたことで、それは現実になった。


だが、実際に加盟かめい国以外――つまり共和国を受け入れなかった国は、かつて文明社会が崩壊した頃と変わらなく、いまだにそこに暮らす人々は苦しい生活をいられているのが現状だった。


――共和国の思い通りにさせるわけにはいかない。


すでにバイオニクス共和国は、この地球ほし――世界そのものといっていいほどの勢力をほこっている。


だがしかし、それでも非属ノン ジーナスロウル·リンギングのやることは変わらない。


たとえ世界のすべてを敵に回しても、彼のすべきことに変化はない。


マシ―ナリーウイルスの適合者であるミックスの粉砕である。


そこから彼の反逆の狼煙のろしが上がるのだ。


「まだまだ日の出までは時間があるな」


ロウルは腕時計に目をやり、現在の時間を確認する。


口にした通り、先ほどの戦闘後にクリーンに伝えた「一日待つ」というリミットまで、まだ十時間以上あった。


彼はふぅーとため息をつくと、やみの向こうに声をかける。


「あの少年には伝えてくれたのか?」


闇の奥から足音が聞こえてくる。


それも一つだけではない。


先ほど撃退した戦闘用ドローンのものとは違う、人間が歩く音だ。


「ミックスさんはまだ眠っています。だから、お伝えすることはできませんでした」


「なら出直してこい。まだ時間はあるからな」


「いえ、それには及びません」


先頭を歩く白髪の少女がロウルへするどい眼差しを向ける。


クリーン·ベルサウンド――。


彼女の両手には、それぞれ白と黒の刀がにぎられていた。


「ここであなたを止めますからッ!」

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