#210

アリアに続いてヘルキャットも倒され、ミックスは怒りに身をまかせてロウルに向かっていく。


装甲アーマードッ!」


彼の咆哮ほうこうと共にその腕が機械化していく。


マシーナリーウイルスの適合者であるミックスは、伝説のヴィンテージであるアン、ローズのテネシーグレッチ姉妹やノピア・ラシックと同じく自分の身体を機械化――白い鎧甲冑のような外装である装甲アーマードすることが可能。


その力は身体能力を劇的に向上させ、常人をはるかにしのぐ力をることができる。


本来なら暴力を嫌う性格のミックスだが、目の前で友人を――しかも女の子を傷つけられたことに腹を立て、ロウルの顔面に一発お見舞いしなければ気が済まなくなっていた。


装甲アーマードか。実際に見るのは七年ぶりだな」


ロウルは乗っていたバイクのようなものから降り、ミックスを正面からむかえ撃つ気だ。


機械化したこぶしにぎり、すさまじいいきおいで突進してくるミックス。


先ほどアリアやヘルキャットを翻弄ほんろうしてみせたロウルの動きにも負けない、まともな人間なら目で追えないほどのスピードだ。


だが、ロウルは表情一つ変えずに――。


「さすがに速い。でもよぉ、それだけだ」


向かってきたミックスにカウンターの形で自身の拳をたたむ。


地面に向かって叩きつけられたミックスは、公園のアスファルトの上をまるでゴムまりのようにバウンドし、はるか後方へと飛んでいく。


「まだやる気か?」


ミックスを吹き飛ばしたロウルは、人の気配がする背後に声をかけた。


そこには、先ほど一撃でしずんだヘルキャットとアリアの姿があった。


インストガンをかまえながら、ロウルのことをにらみつけている。


「下がれ。俺に女をなぐ趣味しゅみはない。それに、俺の相手をするには、お前らじゃ役不足だ」


ロウルのいうことはもっともだ。


彼の話からするに――。


二人の上官であるブロード・フェンダーはすでに倒され、今目の前でミックスもいとも簡単にき飛ばされたのだ。


それも、突然向かって来た野良のら犬でも振り払うかのように退しりぞけた。


いくらヘルキャットとアリアが訓練くんれんされた兵士だからといって、何の能力も持たない普通の人間である彼女らでは、やる前から勝負は見えている。


だが、二人はひるまずに気炎きえんく。


「女だからってバカにしないで! こう見えてもどんなひどい戦場だって何度もくぐり抜けてきたんだからッ!」


「私たちにも意地があります! たとえ相手が格上だろうとここで引く私たちじゃありませんッ!」


ロウルはそんな威勢いせいのいい二人を見て頭をいていた。


そして、いかにもこまったといった顔をすると、その表情を冷たいものへと変える。


「失礼した。覚悟を決めてる相手に男だとか女だとかいっちゃいけないよな。オッケーだ、全力相手してやる。はずみで死んでも後悔するなよ」


ロウルが彼女たちと戦う意思をかためると、遠くのほうから声が聞こえる。


「やめろッ! 二人に手を出すなッ!」


その叫び声の主はミックスだった。


彼は再び機械の拳を握って、ロウルへと向かってきている。


それを見て笑みを浮かべたロウルは、二人からミックスのほうへと身体を向ける。


ヘルキャットとアリアは、ミックスに気を取られたところを狙おうとしたが、先ほどロウルが乗っていたバイクのようなものが突進してきて、ね飛ばされてしまった。


「ヘルキャット! アリア!」


「人の心配をしている場合かよ?」


直線的な攻撃はまたもロウルに読まれ、ミックスはその首をつかまれてしまう。


そして、ミックスの身体を片手で軽々と、ネックハンギングツリーのような状態にり上げた。


呼吸が苦しいのだろうミックスは、声を出すこともできなくなる。


粉砕ふんさいすると宣言しておいてなんだが……止めてやってもいい」


「がはッ! な、なんで急に……ッ!?」


「グラビティシャドー……お前には、それだけ言えばわかるだろ?」

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