#209

「ロウル・リンギング……ッ!」


アリアは持っていたバックから電磁波放出装置――インストガンを出してかまえる。


一方ミックスは、ロウルを見てふるえていた。


何か感じるものがあったのだろう。


知っているようで見たこともない圧倒的な力。


緊張感の欠けた表情からにじみ出る自分への殺意さつい


今までいくつも修羅場しゅらばくぐってきたミックスだったが、この男はかくが違う――そう自然と身体が理解していた。


「わざわざ共和国と帝国に知らせてやったのに、護衛ごえいはあの男一人かと思ったらそっちのもそうなのか?」


ゆっくりとみずうみの上を移動しながら近づいてくるロウル。


そのパーマがかった長髪の男が乗っているものは、バイクのような形状けいじょうをしていた。


ただし、タイヤもライトもない。


それは真っ黒な影のようものだったが、ロウルを乗せ、たしかに宙をいて進んでいる。


「ったく、男一人と女一人だけかよ。俺もずいぶんとナメられたもんだな」


「もう一人いるわよ!」


その声と共に閃光せんこうほとばしる。


放たれた電磁波が、湖の上を移動するロウルへとおそい掛かった。


先手せんて必勝ひっしょうッ! 悪いけどこれで終わりよ!」


電磁波――インストガンを撃ったのは、ヘルキャットだった。


どうやら彼女もこの湖水こすい公園に違和感を覚え、ミックスたちのところへけつけてきたのだ。


現れてそうそう勝利宣言をしたヘルキャットだったが、彼女の撃った電磁波はロウルの顔面には命中しなかった。


それは狙いが外れたからではない。


ロウルは背後から放たれた電磁波を、まるで虫でも払うかのように素手すではじいたのだ。


「一人増えたところで、大して変わるものでもないと思うけどな」


ロウルはヘルキャットのほうを振り返って言った。


攻撃を仕掛けてくると思った彼女は、ミックスとアリアがいるほうへと走る。


そして、言葉も交わさずに二人は陣形らしきものを組み、インストガンの銃口をロウルへと向けた。


アリアが叫ぶ。


「護衛の人数を把握はあくしているということは……ブロード大佐たいさはどうしたんですかッ!?」


「大丈夫だよ、死んじゃいない。ただあまりにもしつこいもんでな。少々やり過ぎちまったが」


ロウルの返事を聞いてアリアは激昂げきこうした。


構えていた銃口からロウルに向かって電磁波を放ち続ける。


そして、そんな彼女に呼応こおうするかのようにヘルキャットも狙い撃つ。


最大出力で放出された電磁波の衝撃で湖の水が舞う。


その中からロウルが姿を現すと――。


「無駄だ。俺に電磁波は効かねぇよ。もっともさすがに顔面がんめんとかにまともにらえばいたいけどな」


すべて払ったのだろう、その屈強くっきょうな身体には電磁波によるげ付きすらなかった。


ヘルキャットとアリアは走りながらも再び電磁波を撃つ。


相手が言ってくれたのだ。


顔面にさえ当てればダメージがあると。


二人がそこを狙わないわけがない。


だが、彼女たちは一瞬で背後を取られてしまう。


「そんなバカなッ!?」


「アリアッ!?」


叫ぶヘルキャットだったが、仲間の心配をしている場合ではなかった。


ロウルはアリアの後頭部へひじを打ちつけると、ヘルキャットの目の前に現れる。


そのあまりの移動速度に、彼女は激しく動揺した。


見えなかった。


アリアが倒れたと思ったら正面にいた。


やはりこの男はハザードクラス――災害さいがいレベルの化け物だ。


「ちゃんと生きてんよ。俺の狙いはあの少年だけだからな」


「ヘルキャットッ!」


今度はミックスが叫んだ。


だが、首筋に手刀しゅとうを落とされ、ヘルキャットはその場にしずむのであった。

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