#196

電話はジャズからかかってきたものだった。


どうやら無事に、彼女の故郷であるストリング帝国にたどり着いたようだ。


今は帝国内にある空港で迎えを待っている状態だと言う。


「久しぶりの故郷はどう?」


《そう言われてもさ。着いたばかりなんだから特になにもないよ》


バイオニクス共和国から帝国へは移動に一日掛かるため、ジャズの声は少々疲れ気味だ。


電話の相手がジャズだと知ったニコは、その場で嬉しそうにピョンピョンねている。


ミックスがニコも彼女が無事に到着したことを喜んでいると伝えると、よろしく言っておいてほしい返事をした。


「それで、わざわざ連絡くれたのは俺もニコも嬉しいけど、なにかあったの?」


《なにそれ? あたしが無事に到着すること以上になにかないと、電話一つかけちゃダメなわけ?》


「そんなこと言ってないだろッ!? なんでそうとるかなぁ」


《あんたがそういう風に聞こえる言い方するからでしょッ!》


ジャズの無事を喜んでいたニコだったが、急に始まった二人の口喧嘩に怪訝けげんな顔をした。


二人が言い合いを始めると長いのだ。


ニコは、簡単に会えない距離になってもこうやって揉める二人を見て、もう少し仲良くしてほしいと思い、メェーとため息をつく。


そして、自分は今日何回ため息をついたのだろうと考え、ガクッとその小さな肩を落とした。


しかし、電話でもいつもと変わらない二人を見て微笑ましくもあったのか、うつむきながらもクスっと笑っている。


それからしばらく言い合いが続き、ミックスが謝ることで決着がつくと、ジャズが別の話を始める。


《あんたさぁ、ヘルキャットとアリアのことは覚えてる?》


「もちろん。ジャズの友だちでしょ?」


ヘルキャットとアリアとは、ジャズのストリング帝国時代からの友人で、以前に共和国へテロ行為を行おうとした少女たちだ。


結果としては、彼女たちを止めようとしていたジャズにミックスとウェディングが手を貸し、彼女たちの計画だったバイオニクス共和国を象徴する管制塔――アーティフィシャルタワーの破壊を阻止することに成功。


その後は色々とあって、ギクシャクしていた関係も元に戻っていたようだ。


ある意味では、今のミックスとジャズを繋げた二人だともいえる。


《実はさ、二人はなんか共和国に行っているみたいなんだよね。だからもし二人があんたを頼ってきたらさ。助けてあげてほしいんだよ》


「ああ、そんなことか。いいよ。彼女たちがうちを知っているかはわからないけど」


《そういってくれると思ったよ。なんだかんだで頼りになるからね、あんたは》


「おッ、やっとジャズも俺の重要さを理解してきたね」


「バカッ、ちょっとめたくらいで調子に乗るな」


それから二人は他愛もない話をした後で、また連絡すると言い合って電話を切った。


ミックスは再びキッチンへと戻り、IHクッキングヒーターの電源を入れようとしたが、今度は玄関の呼び鈴が鳴る。


夕食時のこんな時間に誰だと思いながら、ミックは玄関へと向かい、扉のドアノブに手を伸ばす。


「はいはい、今出ますよ~」


扉を開けるとそこには、小柄な少女と長身の少女二人が立っていた。

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