#195

ジャガーが消え、仕方なく帰宅することにしたミックスとニコ。


その帰り道で今夜作る夕食の材料を買うと、彼の表情は明るいものへと戻っていた。


「いや~鶏肉の特売セールなんてついてたな。よし、今夜は照り焼きチキンだぞニコ」


ニコはミックスの言葉を聞いてあきれていた。


この少年は、自分がハザードクラスに命を狙われていると言われたばかりだというに、すでに忘れているようだったからだ。


ミックスは、心配そうに鳴いてくるニコに気が付き、電子羊に返事をする。


「だって、気にしてもしょうがないじゃん。それよりも今はチキンだよチキン」


自分の飼い主である少女――ジャズがこの場にいたら苦言くげんの一つでもいうのだろうが、いろいろと疲れ切っていたニコにはその気力はなかった。


ただメェーとため息をつくことしかできない。


それから自宅である寮へと到着。


ミックスは手洗いとうがいを済ませると、早速買ってきた鶏肉を出して調理の支度を始めた。


「え~と、照り焼きチキンに必要なものは――」


材料は、鶏もも肉、片栗粉、サラダ油、マヨネーズ


さらに調味料は、料理酒、みりん、砂糖、醤油しょうゆを用意。


鶏肉は一口大に切り、全体に片栗粉をまぶす。


フライパンにサラダ油を入れて熱し、鶏肉を皮側を下にして入れて中火で焼く。


皮側に焼き色がついたら裏返し、蓋をして弱火で二分火が通るまでまた焼く。


それから調味料を加えて火を強め、中火でとろみがつくまで煮からめて器に盛り、好みでマヨネーズをかける。


店出るような本格的なものとはいかないが、ミックスが兄や姉に習ったレシピによって、家庭でも簡単にできる照り焼きチキンの完成だ。


ミックスがチキンを料理している間は、ニコが台に上がり、彼の隣で付け合わせのサラダの用意と炊飯器のセットをしていた。


今までに何度もミックスを手伝っているせいか、すでにニコの段取りの良さは、ミックスの知っている少女たち――ジャズ、ウェディング、クリーンよりも上だ。


ミックスもニコになら安心してまかせられる。


「もうすぐ完成だよ、ニコ」


笑顔でいうミックス。


照り焼きの芳ばしい香りが部屋を満たす。


この芳醇ほうじゅんな香りの正体は、ミックスの家では料理酒に紹興酒を使っているからだ。


出来上がりもしつこくないのに濃厚のうこうな味わいになる。


この食欲をそそる匂いに、先ほどまで元気のなかったニコもさすがにテンションが上がったようで、早く食べたそうにリビングにあるテーブルを拭いていた。


「うん、やっぱり美味しいものにかなうものはないよねぇ」


ミックスは、笑顔で弾むようにテーブルを拭いているニコを見て、嬉しそう呟いた。


そのとき、テーブルに置いてあったエレクトロンフォンが鳴る。


料理はほぼ完成間近だったが、ミックスはIHクッキングヒーターの電源を切ってリビングへと向かう。


エプロンを付けたままリビングへ入ってきたミックスに、ニコが震えながら鳴っているエレクトロンフォンを渡す。


そして、電話に出ると――。


「あッ、ジャズ?」

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