#176

(かすかだが、たしかに感じるな。……クソッ、スティールがいりゃもっと正確せいかくに追えるんだが……)


ブレイクは犯人はんにんにおいをたどる警察犬けいさつけんのように、現場にのこされていたリーディンのトランプカードから彼女の追跡ついせきこころみてみた。


それはごくわずかながらも、リーディンの持つ呪いの儘リメイン カースちからが、まるでパンのかけらを落としていくように道しるべと残留ざんりゅうしていたからだった。


それからオープンカーで陽射ひざしの強さを感じながら、追っていたリーディンの残留が消えているところへと到着とうちゃく


ブレイクは、オープンカーに設置せっちしてあった車載器しゃさいきに持っていたエレクトロフォンをかざした。


ここまでの運賃うんちん――タクシーだいとばかりに、自分の電子マネーから金銭きんせん支払しはらう。


「ここまでだ……。もういい、さっさとせろ」


オープンカーの男はその支払ったがくを見て、こんなに? といった顔をしていたが、ブレイクがにらみつけると、車を走らせてその場からっていった。


たどり着いた場所は物流ぶつりゅう倉庫そうこだった。


荷物にもつ区別くべつするためだろうか。


一つ一つバラバラの色――カラフルなコンテナがならんでいる。


「ハハ、したしんだ空気だ。ここにオレと同じクズがいやがるな」


その中を歩いていくブレイクは、そうつぶやくと笑っていた。


このコンテナでくされている場所から、自分と同じ匂いを感じ取ったのだろう。


特殊とくしゅ警棒けいぼうのような伸縮式しんしゅくしきの剣をかたにかけ、じつうれしそうに歩く。


「ずいぶんと楽しそうだね」


すると突然、背後から声が聞こえた。


その声は耳元みみもと直接ちょくせつ聞こえて来る。


どうやら声のぬし真後まうしろにいるようだ。


「ハザードクラスのくろがねってこんな小さかったのか。まだ子供じゃないか」


「テメェ……生物血清バイオロジカルか?」


「答える必要はないね」


声の主がそう答えると、バチバチとした音がなり棒状ぼうじょうのものが振り落とされた。


殺気さっきを感じたブレイクは、伸縮式の剣でそれを防いで振り向いたが、そこには誰もいない。


「オレを知ってるってことは、テメェがここで待ちせていたってことだよなぁ?」


「だから答える必要はないと何度も言ってる」


姿すがたは見えないが声だけは返ってくる。


しわがれた若い男の声。


そして、おそらくスタンバトンのようなものをもっているのだろう。


先ほどおそってきたときに聞こえた電気が流れているような音がその証拠しょうこだ。


光学こうがく迷彩めいさいかなんかか? 姿を消さねぇと戦えないなんて、クズの中でも最低さいていのクズだなテメェは」


ブレイクは何かの装置を使って姿を消しているのかと判断はんだんした。


彼が実際じっさいにお目にかかったわけはないが、以前に読んだ軍事関係の資料しりょうで、このバイオニクス共和国で光学迷彩の技術ぎじゅつが完成したことを知っていた。


それが実戦に――しかも共和国にあだなすてき組織に使われていることに、ブレイクははなで笑う。


そこが知れる安い挑発ちょうはつだ。ハザードクラスとはいっても所詮しょせんは子供だな」


しわがれた男は移動しながらしゃべっているのか、声の聞こえてくる方向が変わっていく。


男の声に耳をかたむけながらブレイクは笑う。


「フッハハ、底があさいのはテメェのほうだ。姿を消すような安い手品てじなでオレに勝ったつもりかよ?」

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