#177

しわがれた声の男は、そう言って笑うブレイクに攻撃を仕掛しかける。


自分の体と同じく透明化とうめいかしたスタンバトンを振り落とす。


「アメェんだよ」


だが、彼はそれをふせいでみせた。


男はブレイクと距離きょりを取り、考える。


こちらの姿すがたは見えていないはずだ。


なのに、どうして攻撃が来ることがわかる?


しわがれた声の男の背中せなかには、マルチラックシステムと呼ばれるはこのようなバックパックがあった。


マルチラックシステムとは、元々もともとストリング帝国にあったジェットパックというかばんのようなものを背負せおい、そこに付けられたジェットの噴射ふんしゃによって推進すいしんする飛行ひこう器具きぐ改良かいりょうしたものだ。


そのラックには、自分の戦闘せんとうスタイルに合ったこのみの装置そうちを組みめる。


男がマルチラックシステムに組み込んでいるのは、先ほどブレイクが予想よそうしていた通り、光学こうがく迷彩めいさい技術ぎじゅつだ。


その装置そうち名称めいしょうはカメレオントロンといい、特殊とくしゅ粒子りゅうし周囲しゅういに飛ばし、光を屈曲くっきょくさせて人や物を透明に見せるものである。


自分の腕を見て男は思う。


大丈夫だ。


たしかに消えている。


光学迷彩装置カメレオントロンは正常せいじょうに作動している。


ブレイクから自分の姿が見えるはずがない。


なのに、どうしてだ?


しわがれた声の男は何度も考えたが、やはりわからない。


そんな男を見透みすかすかのように、ブレイクが口を開く。


「まだわかんねぇのかよ。クズのうえにバカなのか?」


それから彼は実に楽しそうに説明せつめいを始めた。


ものが動けば空気も動く。


男が動くたびに空気の流れが変わる。


それを感じ取れば動きが把握はあくできる。


さらに攻撃するときにスタンバトンを振れば、その電気がる音でより明確めいかくに居場所がわかる。


つねに移動してオレに居場所をわからせねぇようにするのはイイやり方だ。それから足音あしおとの消し方も大したもんだよ。だがな、肝心かんじんなとこがりてねぇ。いや、なにもかもが足りねぇ。そんなんじゃオレにはとどかねぇ」


「バカなッ⁉ 流れている空気の動きがわかるだとッ⁉ それにたとえ攻撃の瞬間しゅんかんにこちらの位置いちがわかっても、反撃できるなど人間技じゃないッ⁉」


「なんだぁ、わすれちまったのかよ?」


ブレイクは、足を止めてしまっている男の位置を把握し、そちらを向いて口角こうかくを上げた。


その顔は、まるで火にあぶられただれてしまったかのようにゆがんでいて、見た者を恐怖きょうふさせる――そんな笑みだった。


しわがれた声の男にはもはや戦意せんいはなかった。


その場でふるえながら、動くことさえ忘れてしまっている。


そして、自分が相手をしている白髪はくはつの少年が、どんな人物だったのかを思い出していた。


まだ高校生でありながらバイオニクス共和国で最強といわれた男――。


たった一人で一国いっこくの軍隊すらつぶせるほどの実力を持つ化け物のことを――。


「忘れたんなら思い出させてやるよ。オレがハザードクラス――くろがねブレイク·ベルサウンドだ」


その後しわがれた声の男は、光学迷彩装置で姿を消したまま、その場で首をね飛ばされた。

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