#175

そんな二人を見たヴィクトリアはスーッとあいだに入る。


「はいそこまで。なしなしな~し、ケンカはな~し。仲間内でのあらそいは“ダメ。ゼッタイ”ってメディスンさんがいってたっしょ」


きゅうに割って入ってきた彼女に向かってブレイクは顔をしかめたが、ジャガーのほうは笑みをかべる。


それに苛立いらったのか、ブレイクは舌打したうちをした。


だが、ヴィクトリアもジャガーも特に気にしてはいない。


「それよりも任務にんむだよ。このカードから何がわかるか考えないと」


そして、ヴィクトリアはこのリーディンがのこしたトランプカードをジャガーの手から取る。


それからしばらく考えんだ彼女は、このカードから何が連想れんそうできるかを話し始めた。


スペードのジャック――。


季節きせつでいうと冬、時間でいうと夜を暗示あんじする。


さらに剣や騎士きしなどの意味もあるという。


「よく知ってんな。絵札えふだの意味なんてどこでならったんだよ?」


「フフフ。さすがのあんたも知らないことがあるんだね~。ま、学校でおしえてもらえることじゃないかぁ」


得意気とくいげな顔をするヴィクトリア。


その自信じしんあふれた表情を見たブレイクは、またしかめっつらへともどった。


そんな二人にジャガーが口をはさむ。


ほかにもあるぞ。たとえば一番有名なのでいえば死とかな。マニアックなとこでいえば風の星座せいざもだ」


そしてジャガーは、スペードの意味だけでなくジャックのカードについても話し続けた。


トランプカードでのジャックは、おも若者わかものという意味で知られている。


さらに一般的いっぱんてきにジャックと単語は人名と思われているが、他にも召使めしつかいや家来けらいなど意味もあるそうだ。


「そして、こいつはスペードのジャック。よく見るとわかるが、絵札のやつがそっぽ向いてるだろ?」


ジャガーのいうとおりトランプカードにえがかれたジャックは、スペードのマークから顔をけている。


これは、若者が死に対して嫌悪感けんおかんを持っているという意味なんだそうだ。

 

「う~ん、冬、夜、剣、騎士でしょ。それと、死と風の星座にぃ……若者、召使い、家来からの~若者が死をきらってる? なんなのよもうッ、わけわかんないッ!」


「だが、意味もなくトランプカード一枚を置いていくとは思えない。かならず意味はある。そいつがリーディンからのメッセージのはずだ」


ヴィクトリアが頭をかかえると、ジャガーは彼女のことをさとした。


このスペードのジャックは、おそらく今回エアラインとリーディン二人が消えたことに関係する重要じゅうようなものなのだと。


しかし、現時点げんじてんでは情報が少なすぎる。


この一枚のトランプカードから、二人が消えた理由を考えるのは不可能ふかのうといえた。


頭をなやましてるジャガーとヴィクトリアを尻目しりめに、ブレイクは部屋を出ていく。


「ちょっとあんたッ! 一体どこへ行くんだよッ!?」


「オレは探偵たんていじゃねぇんだ。そのよくわかんねぇメッセージをくのはテメェらにまかせる」


声をあらげるヴィクトリアに、ブレイクは振り返らずに答えた。


ヴィクトリアはブレイクを止めようとしたが、ジャガーがそんな彼女に行かせてやるようにいうと、だまって彼の背中を見送る。


「いいの? あいつを行かせちゃって」


「何かぎつけたんだろ。しばらく好きにさせてやったほうがいい。それにどこへ行こうが、あいつはビザールからはなれられねぇよ。オレやお前みたいな」


ジャガーにそういわれたヴィクトリアは、エレクトロフォンを出してブレイクにメッセージを送った。


その内容はこうだ。


「なにかわかったら速攻そっこうで連絡しろよなッ!」


そして、それをマンションの外で確認したブレイクは舌打ちをし、ポケットにエレクトロフォンをしまう。


「あのたい焼き女……エラそうに……」


ブレイクはそうつぶやくと道路どうろへと出た。


そして、前から向かってくるオープンカーに飛び乗る。


突然飛び乗ってきた白髪はくはつの少年を見て、運転していた男は大声を上げてブレーキをんだ。


ブレイクは、まるで当然のように助手席じょしゅせきこしを下ろす。


「だ、誰……?」


男が戸惑とまどっていると、ブレイクは伸縮式しんしゅくしきの剣のやいばばして突きつける。


「今からオレがいう道を走れ」


「は、はい……」


男はわけが分からぬまま、ブレイクのいう通りに車を走らせるのだった。

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