#174

上の階から感じる気配けはいにはおぼえがある。


そう思いながらブレイクは、まよわず三階へと向かい、その階にあったおくの部屋のドアノブに手を掛ける。


かぎは掛かっていなかった。


誰かが開けたのか。


それともただ閉めわすれたのか。


きゅうにどうしたんだよ? まさかここがエアラインたちが消えた部屋だっての?」


しずかにしろ。中に誰かいる。知っている感じだ」


突然け出したブレイクについてきたヴィクトリアは、彼の言葉を聞くとその表情を変えた。


普段ふだん快活かいかつな彼女からは想像そうぞうができないような真剣しんけんな顔だ。


「……いくぞ」


ブレイクは伸縮式しんしゅくしきの剣――特殊とくしゅ警棒けいぼうのようにやいばびる両刃りょうばの剣を出し、ドアを開けた。


そこのは一人の少年が立っていた。


寝起ねおきのまま出てきたかのようなボサボサ頭に、作業用ジャケットを羽織はおった少年だ。


見た目からして、ブレイクやヴィクトリアとそう変わらない年齢ねんれいに見える。


「えッ!? ジャガー!? あんたジャガーじゃないのッ!?」


ヴィクトリアが少年を見ておどろいていた。


ブレイクはその名を知っていた。


彼が暗部あんぶ組織ビザールに入ってから、ジャガーという男とは、電話やメールで何度も連絡を取り合ったなかだ。


ジャガーはかったるそうに振り向くと、やる気なく二人へ手を振った。


「おう、ヴィクトリアか。そっち新人くんとははじめて顔を合わせるな」


「テメェがジャガー……。どっかで会ったことがある気がするが、まあいい。ここがエアラインたちが消えた部屋か?」


「ちょっとあんたら!? なんでそんなに落ち着いてるわけ!? ここはみんなで驚くとこっしょッ!」


ジャガーとブレイクの態度たいどわめくヴィクトリア。


だが、二人は彼女のことなど気にせずに話を続ける。


ブレイクがたずねたとおり、エアラインとリーディンが消えたのはこの部屋のようだ。


それは、彼ら二人が持っていたエレクトロフォンがここにあったからだ。


「これを見ろ」


「あん? なんだそれ? トランプか」


ジャガーは部屋にあったという一枚のトランプカードを二人に見せた。


スペードのジャックだ。


「こいつはリーディンのものだ。調べたら、かすかに呪いの儘リメイン カースの反応があった」


だが、加護かごを受けている奇跡人スーパーナチュラルと違い、使い続けるとその身が破壊はかいされてしまう。


リーディンはその呪いの儘リメイン カースであり、彼女は経典きょうてんアイテルという本から啓示けいじを受けたことにより、その力の一部を負荷ふかなしで使用することができた。


どうやらジャガーがいうに、このスペードのジャックはリーディンが意図的いとてきのこしたもののようだ。


「こいつが今回の任務攻略こうりゃくのヒントになる」


「知ったようなこというじゃねぇか。オレの知ってるクズの話によれば、奇跡人スーパーナチュラル呪いの儘リメイン カースもまだこの国じゃ解明かいめいされていないことが多いってのによ」


「そういうお前は奇跡人スーパーナチュラルのくせに知らなぎるんだよ。あたえられたものだけで生きていけるほど、この世界は甘くないぞ」


「あん? なんだぁ、ケンカ売ってんのかセンパイ?」


「オレはそんな面倒めんどうくさいことはしねぇよ」


にらみつけるブレイクに対して、ジャガーは無表情のまま目を合わした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る