#173

それからホテル出たブレイクたちは、ヴィクトリアが乗ってきた車に乗りむ。


それは当然アイスクリームトラックだ。


「同じ車を使うと足がついてマズいんじゃねぇか?」


「大丈夫だよ。このアイスクリームトラックは使うたびにナンバープレート変えてるから」


「そいつは手が込んでんな」


そして、メディスンから受けた任務にんむ――。


エアラインとリーディンが消息しょうそくったという、生物血清バイオロジカルのメンバーが住んでいると思われるマンションへと向かう。


陽射ひざしが強くなってきて、気が付けば時間はすでに午前七時になっていた。


ヴィクトリアがブレイクの部屋に来たのが午前六時半くらいだから出発してから約三十分はったか。


そろそろ住民じゅうみんたちが起きて動き出す時間だろう。


「ねえ、小腹こばらかない?」


「空かねぇよ。昨日の夜にホテルの売店で買ったもんで腹は十分ちてる。ていうかテメェ、朝はガッツリとかなんとか言ってだろうが」


「だってしょうがないじゃん。女の子はいつだってお腹を空かせているものなのよ」


ヴィクトリアはそう答えると、ブレイクが売店で買ったものをたずねた。


彼はいちいち訊くなと言わんばかりに顔をしかめていたが、ヴィクトリアがあまりにもしつこいので、朝食ちょうしょくとして食べた売店のものをおしえる。


「フレンチトーストとフルーツジュースだ」


「えぇーッ!? あんた、そんな和風わふうキャラなのに洋食ようしょくかッ! しかもそんなオシャレなもん食べてたわけッ!?」


ブレイクがフレンチトーストとフルーツジュースを朝ごはんにしていたのがツボにはまったようで、ハンドルをにぎりながら大笑いするヴィクトリア。


なんだか馬鹿ばかにされたように感じたブレイクは、ひたい血管けっかんをピクピクとかび上がらせながら眉間みけんしわを寄せていた。


「いつまでも笑ってんじゃねぇッ! まともな食いもんがそれしかなかったんだよ! あとはブルーベリーパイとかアップルパイみたいなもんしかのこってなかったんだからしょうがねぇだろがッ!」


「ハハ、あんたが前にアタイのことをチグハグだって言ってたけど。あんたも十分チグハグだね」


ヴィクトリアはうれしそうにいうと、ブレイクがフンッとはならした。


移動中いどうちゅうではそんなやり取りをし、アイスクリームトラックは目的地であるマンションへと到着とうちゃく


どこにでもあるような特徴とくちょうらしい特徴のない普通ふつうのマンションだ。


前に監視員バックミンスター隊長たいちょうふく隊長の夫婦ふうふであるブラッドとエヌエーの住んでいたタワーマンションにいたブレイクからすると、良くいえば庶民的しょみんてき、悪くいえば 程度ていどひく住居じゅうきょ


さらには、その前に住んでいた学生りょうよりも貧相ひんそうに感じた(ブレイクは、ジャズやウェディングがかよっているエリート校の生徒だったので当然といえば当然だが)。


風情ふぜいというか……なかなかおもむきがあるマンションだね」


「あん? 古臭ふるくさいの間違まちがいだろ? 大体、なんでこんな旧時代きゅうじだいモデルマンションが共和国にあんだよ」


「そうだね……。家賃やちんはとってもやすそうだけど……。とりあえず入ってみようか」


「ケッ、あの優等生ゆうとうせいもトレンチコートの女も、テメェの仕事くらいテメェで処理しょりしろってんだよ。メンドクセェ」


そして、ブレイクとヴィクトリアはマンションへと足をみ入れる。


このマンションにはオートロックはなく、さらにエレベーターもない。


二人はまず、一階から順番じゅんばん調しらべてみることにした。


――とはいっても一つ一つの部屋を調べてはいられない。


それに入ってみてわかったが、この建物にはそもそも人が住んでいる気配けはいがない。


玄関げんかんには表札ひょうさつがあり、窓からは洗濯物がしてあるのが見えるのだが何かがおかしい。


ブレイクがそう思っていると――。


「いや、上だ。上の階へ行くぞ」


「ちょっと待ってよあんたッ!?」


上の階から人の気配を感じ、その部屋へ向かうために階段かいだんけ上がっていった。

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