#167

わめくヴィクトリアが愚痴ぐちを言いくして満足まんぞくすると、メディスンはようやく今回の任務にんむのことを話し始めた。


その話によると、彼にはイーストウッドから直接ちょくせつ連絡があったそうだ。


だが、すでにエアラインに任務変更へんこうは伝えていると聞かされたメディスンは、ブレイクたちに連絡しようとしたものの、先にヴィクトリアからいかりのメールがおくられてきたそうだ。


余計よけいな話はいい。それよりももっとわかりやすく言ってくれよ」


「ちょっとブレイクッ!? メディスンさんはアタイらの上司じょうしなんだよッ! それなのにその言い方はないんじゃないッ!」


先ほどまでその上司に散々さんざん愚痴を言っていたの誰だ。


ブレイクはそう思って何か言い返そうとしたが、メディスンがブレイクとヴィクトリア二人をせいした。


そして、ヴィクトリアにブレイクの口のき方を気にしないように言うと、今回の任務――潜伏せんぷくしていた生物血清バイオロジカルから居場所を聞き出すはずだったことについて話を始める。


メディスンがイーストウッドから聞いた話によると、生物血清バイオロジカルが潜伏していたという情報じょうほうは、あちらがわながした罠だったそうだ。


それを聞いたヴィクトリアは、二つ目のたい焼きをくわえてせきから身を乗り出す。


「そうなんですよ! アタイたちが来ることがわかっていたみたいで、マジであぶなかったんですよッ!」


「テメェはオレのうしろにいただけだろ?」


「なによ! それでも言ってることは間違まちがってないっしょッ!?」


ブレイクがヴィクトリアの発言はつげん正確せいかくではないというと、彼女と言いあらいが始まりそうになった。


だが、メディスンは気にせずに話を続けると、二人はピタッとだまる。


生物血清バイオロジカルがどうやってこちらにうその情報を流したかはわからないが、それにいち早く気が付いたイーストウッドはエアラインに連絡し、てきをすべて始末しまつするようにめいじたそうだ。


話を黙って聞いていたヴィクトリアだったが、どうも納得なっとくがいかないようで、そのほおほおらませている。


そんな彼女を見たブレイクは、現実にそんなことをする人間がいたのかとあきれていた。


「でもでも、それでも皆殺みなごろしっておかしくないですか? そこはメディスンさんが最初に出した任務通りにつかままえて、情報を引き出すべきだと思うんですけど~」


たい焼き女の通りだ。


ブレイクは何も言わなかったが、三つ目のたい焼きを食べだしたヴィクトリアに同意どういしていた。


われながらあれだけ派手はでころしておいてなんだが、一人くらいかしておこうとは考えていた。


だが、後からやってきたエアラインによって、のこっていた生物血清バイオロジカルはすべて肉片にくへんへと変えられてしまう。


それにどんな意味があったのか。


ヴィクトリアやブレイクがたずねる前に、メディスンがこたえた。


路地裏ろじうらで待ちせていた生物血清バイオロジカルのメンバーは、どうやら末端まったん構成員こうせいいんではなかったようで、おそらく拷問ごうもんをしても何も情報をられない。


これは別にメディスンがイーストウッドをかばうために言っているわけではなく、生物血清バイオロジカル正規せいきのメンバーはみな忠誠心ちゅうせいしん――いや、かなりの信念しんねんを持っており、そのためにはいのちもいらないし、地獄じごくのような拷問されてもえる者ばかりのようだ。


「だからイーストウッドは、連中をらえても時間の無駄むだだと思ったんだろう」


「そうなんですか……」


ヴィクトリアはまだ納得がいってなさそうな顔をしていたが、メディスンの言葉を聞いて渋々しぶしぶながらも了解りょうかいしたようだ。


メディスンは一通りの話を終えると、ほかに聞きたいことはあるかと二人に訊ねた。


ないと返事をしたヴィクトリアは、この後の任務はどうなっているのかを訊き返す。


「いや、今夜はもう仕事はない。帰って休んでくれ」


「わかりました。それじゃお先に失礼しつれいしま~す」


ヴィクトリアはそういって持っていたエコバックに、残っているたい焼きをめ始めた。


それ見てブレイクが言う。


「お前、帰ってからもたい焼きを食うつもりか?」


「だってもったいないじゃん。どうせ二人は食べないっしょ? だったらアタイが持ち帰ったほうがいい」


「そりゃそうだが……」


出会ってから、ほぼずっとたい焼きを食べているヴィクトリア。


ブレイクは彼女のことを、まさか餡子あんこ中毒ちゅうどくなのかと思わず心配になっていた。


その後、エコバックに大量のたい焼きを詰めたヴィクトリアは帰り、部屋にはメディスンとブレイクが残る。


「お前は帰らないのか?」


「オレはまだいい。いくつかテメェに訊きたいことがあるからな」

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