#160

リーダーかくの男がたおされ――。


すでに戦意せんい喪失そうしつしていたのこりの者たちは、ただおびえた表情でブレイクの姿すがたながめていた。


どうやらハザードクラス――くろがねとの実力のを見せつけられ、さらに指示しじをする者もころされたためか、逃げる気力きりょくすらくしてしまっているようだ。


そんな生物血清バイオロジカル面々めんめんを見て、舌打したうちをするブレイク。


その様子ようすを見るに、躊躇ちゅうちょなく人を斬り殺す彼でも、すでに戦意のない者とり合うつもりはないようだ。


ブレイクの真っ白なかみには、った相手の血がべっとりと付いている。


ヴィクトリアはそんな彼の姿を見ると、彼の頭にタオルをかぶせてワシャワシャと手を動かす。


「いきなりなにすんだッ!」


「いいからじっとしてなさい。すなぼこりとかたまった血をき取らなきゃきたないっしょ」


「そんなもんはテメェでやんよッ! オレにかまってんじゃねぇッ!」


「はいはい、わかりましたよ~。やめればいいんでしょ、やめれば」


二人がそんなやり取りとしていると、そこへエアラインとリーディンがあらわれた。


ヴィクトリアは笑顔で二人に手を振り、ここで起きたことの顛末てんまつ説明せつめいしようとした。


だが突然エアラインが、拳銃けんじゅうタイプの電磁波でんじは放出ほうしゅつ装置そうち――オフヴォーカーをかまえる。


「ちょっとエアライン⁉ なにするつもりッ⁉」


ヴィクトリアがあわててたずねたが。


エアラインは何もこたえずに、生物血清バイオロジカルの面々に電磁波を発射はっしゃ


出力しゅつりょくを最大にしてあるのだろう、生物血清バイオロジカルのメンバーたちは次々つぎつぎ肉片にくへんとなって破裂はれつしていく。


膨張ぼうちょうした身体が爆発するかのように飛び散るさまひどく。


さらに無抵抗むていこうの者を始末しまつしていくエアラインには、ヴィクトリアだけでなくブレイクやリーディンですら怪訝けげんな顔をしていた。


そんなことなど気にしていないエアラインは、変わらぬすずしい顔で虐殺ぎゃくさつを続けていく。


しまいにはその容赦ようしゃのない殺し方に、命乞いのちごいをする者や逃げ出そうとする者まで現れたが、それでも彼の手が止まることはなかった。


そして、全員をかたづけると、ようやくエアラインは口を開く。


「先ほど上から連絡があったんですよ。潜伏せんぷくしていた生物血清バイオロジカルはすべて殺すようにとね」


「ちょっと待ってよエアライン!? たしかメディスンさんからここいた連中から仲間の居場所をかせろって言われたんでしょ! それなのにどうしてそんな命令めいれいが出るのよ!?」


「後から送られてきた指令しれいはイーストウッドさんからのだったので、くわしいしいことはわかりませんよ」


イーストウッドとは、ブレイクやヴィクトリアの上司じょうしであるメディスンと同じ立場にいる男だ。


彼らが所属しょぞくする暗部あんぶ組織そしきビザールの指示しじは、おもにメディスンとイーストウッドのどちらかによって決められている。


どうやらエアラインは、ここに来るまでにイーストウッドから直々じきじき皆殺みなごろしにするよう言いわたされたようだ。


だが、ヴィクトリアは納得なっとくがいかない。


今回の任務にんむはメディスンから出されたものなのに、何故イーストウッドが出てくるのか。


そして、何故自分たちに相談そうだんもせずに勝手なことをしたのかと、彼女はエアラインにってかかる。


「そうは言われても……返す言葉がありません。ジブンはただ命令に従っただけですから」


「たしかにそうだけど……。じゃあ、次からはちゃんとアタイたちに話してからにしてよね」


努力どりょくします」


ヴィクトリアはエアラインにそういうと、ブレイクに車にもどろうといって不機嫌ふきげんそうに歩いて行ってしまった。


ブレイクはそんな彼女のを見ると、きゅうに振り返ってエアラインの前に立つ。


「あなたはもヴィクトリアと同じで納得がいかないんですか?」


「ちげぇよ。ただ、この肉片の始末はどうすんのかってきたくてよ」


「それはビザールの下部かぶ組織がやってくれます。結構けっこう便利べんりなんですよ。後始末だけじゃなく、武器の用意や移動いどう手段しゅだん逃亡とうぼう経路けいろ確保かくほなどもやってくれるので」


「そうかい。それにしても安心したぜ」


「何がです?」


「テメェがオレと同じクズだってことがわかったからだよ」


ブレイクはうれしそうにそう言うと、彼の目の前からっていった。


のこされたエアラインは無表情のままブレイクの背を見つめ、そのそばにいたリーディンがそんな彼をながめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る