#161

――ブレイクはアイスクリームトラックの助手席じょしゅせきられながら、不機嫌ふきげんそうにハンドルをにぎっているヴィクトリアの愚痴ぐちを聞かされていた。


その話を聞くに、どうやらエアラインはよくイーストウッドのから命令めいれい優先ゆうせんすることが多いらしい。


だが、彼女はエアラインのことは人間的に好きなようで、もっぱら悪口わるぐちはそのイーストウッドのことばかりだった。


(会ったことも、どんなヤツかも知らねぇ人間の悪口を聞かされてもなぁ……)


ブレイクは内心であきれながらも、だまったままヴィクトリアの話を聞き続けた。


それは、ここで五月蠅うるさいとでも言おうものなら、彼女のいかりの矛先ほこさきが自分に向くと思ったからだ。


女が本気で怒っているときは、ただ聞いている振りをしてうなづいていればいい。


それが、いもうとクリーン·ベルサウンドからまなんだ彼の女性への礼儀れいぎ作法さほうだった。


「ホントマジでムカつくっ! メディスンさんに文句もんくいってやるんだからッ!」


「……そのイーストウッドってのはなにもんなんだよ?」


ヴィクトリアの愚痴を一通ひととおり聞き終わったと判断はんだんしたブレイクは、そのメディスンと同じ立場にいるイーストウッドという男についてたずねた。


かれたヴィクトリアは、運転席のそばに置いといたエコバックに手をばし、たい焼きを一つ取って頬張ほおばる。


「あんた、組織のメンバーなのにどうして知らないんだよ? メディスンさんからビザールのことは聞いてるんでしょ?」


「あん? そんなこともあったか? いいからおしえろ」


「もう、しょうがない子だなぁ。それじゃね、モグモグ。まずはビザール内の指示しじ系統けいとうや成り立ちについてから、モグモグ。説明せつめいしてあげる、モグモグ」


「……運転しながらはまだいいが。食うか、話すかどっちかにしろ」


「ふふん、女ってのはね、モグモグ。同時にいろんなことができちゃうんだよ、モグモグ」


「マルチタスクってヤツか? そりゃ都市とし伝説でんせつみてぇなもんだろ。男も女も関係ねぇ。できるヤツできるし、できないヤツはできねぇ」


「マルチタスクはわからないけど。なら、アタイはできるほうだ!」


それからヴィクトリアは、あきれるブレイクを無視むしして、暗部組織ビザールについて話を始めた。


バイオニクス共和国は七年前の戦争でストリング帝国から手に入れた非常ひじょうに高い科学技術と生活水準すいじゅんを有する一方で、その裏では生命倫理ろんりや人権倫理を無視した非人道的ひじんどうてきな研究が進められていたりと不透明ふとうめいな部分も多く存在そんざいしている(たとえばテストチルドレンなどを使った人体実験などがそうだ)。


さらに非合法ひごうほう闇取引やみとりひきおこな業者ぎょうしゃ犯罪はんざい組織などもひそかに暗躍あんやくしている状態。


そこで共和国の上層部は、監視員バックミンスターとは別に、暗殺あんさつあるいは破壊はかい工作こうさくといった決して表沙汰おもてざたにできないような任務にんむう組織――暗部組織ビザールを作ったのである。


「それは知ってる。それよりもオレはイーストウッドってヤツのことを聞きてぇんだが」


あせるな白髪はくはつボーイ。その話はこれからだよ」


ブレイクはあくまで年下あつかいしてくるヴィクトリアににがい顔をしつつも、だまって聞くことにした。

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