#159

そういったブレイクは生物血清バイオロジカルのメンバーたちへと飛び掛かる。


 彼のゆがんだ笑みをかべたその表情を見てこおり付き、立ちくしてしまっている者から次々つぎつぎられていく。 


ブレイクが動くたびに斬られた腕がちゅうい、中には頭をスイカ割りのように真っ二つにされている者もいる有りさまだ。


 一瞬いっしゅん路地裏ろじうらが真っ赤にまり、かすかに入る薄暗うすぐら照明しょうめいに当てられているせいか。


 あたりは流れる血で水浸みずびたしなっているかのようだった。


「くッ!? 距離きょりを取って陣形じんけいみだすなッ!」


生物血清バイオロジカルのリーダーかくと思われる男がさけんだ。 


その指示しじにより、まだまだ人数にんずうまさる彼らは陣形を立てなおし、ふたたびブレイクを取りかこむ。


もはやヴィクトリアは完全に蚊帳かやの外。


 生物血清バイオロジカル面々めんめんには、もうブレイクの姿すがたしかうつっていなかった。


それから生物血清バイオロジカルのメンバーたちは、着ている服から何か小さなものを取り出した。 


それはM67破片はへん手榴弾しゅりゅうだん


 弾殻たまがらの内面にはこまかいスタンプ加工かこうほどこされており、爆発ばくはつさいに破片の大きさが均等になるよう考慮されているものだ。 


その形状けいじょう梨地仕上なしぢしあげのかたち印象いんしょうから、アップルグレネード、またはベースボールグレネードとも呼ばれる。


じゅうではブレイクを仕留しとめられないとさとった彼らは、強力な火力を持つ爆発物を出したのだ。


「街中で花火大会でもやろうってのか?」 


相手をからかうようにいうブレイク。


だが、そばで見ているヴィクトリアは、この状況じょうきょうはまずいと内心であせっていた。


M67破片手榴弾は、爆発時に五メートル範囲はんい以内の人間は致命傷ちめいしょうを受け、さらに十五メートル範囲に殺傷さっしょう能力のある破片が飛散ひさんするといわれている。 


彼女はまさか自分たちごと死ぬつもりかと、ブレイクに向かってさけぶ。


「ブレイクッ! こいつらアタイを道連みちづれにして死ぬつもりだよッ!」


だが、すでにおそかった。 


M67破片手榴弾は投げられてしまっていた。


信管しんかん点火てんか後、やく五秒で爆発するこの手榴弾を、もう止めることはできない。 


ヴィクトリアは意味がないとわかっていながらも、その身をかがめた。 


だが、そんな彼女の耳に入ってきたのは爆発音ばくはつおんではなく、乱暴らんぼうな言い方をする白髪の少年の声だった。


「たかが花火にビビってんじゃねぇよ」


爆発音はその後にひびいた。 


その爆発は、路地裏の上をおおっていたぬのを突きやぶって、空高くで起きたようだ。 


ブレイクは、一部のこまかな破片なら二百三十メートルまで飛散するといわれるM67破片手榴弾を剣の風圧ふうあつだけで押し上げ、被害がない距離まで飛ばしたのだった。


そんな人間技とは思えない彼の剣技を見て、生物血清バイオロジカルのメンバーたちは戦意せんいうしなっている。


自爆じばくすらもゆるされない実力の


その事実じじつ絶望ぜつぼうしたのか、その場で立ちくしている者の中には、両膝りょうひざまでついてしまう人間もあらわれている。 


「ならば身体ごと突っ込めば空へは飛ばせまいッ!」


その中でリーダー格の男がブレイクに向かって走り出す。


M67破片手榴弾をにぎったまま、ブレイクに近づいた瞬間しゅんかんに爆発させるつもりだ。


「ハザードクラスめッ! これで貴様きさまも終わりだッ!」 


「……つまんねぇな、つまんねぇよ……。そんなチンケな花火じゃ……オレは退屈たいくつだ」 


だが、男が近づくよりも先に――。


 ブレイクがその首を叩き落とした。

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