#153

そのからしばらく走行し、ヴィクトリアはアイスクリームトラックを大きな駐車場ちゅうしゃじょうへとめた。


彼女は到着とうちゃくしたことをブレイクにつたえると、早くりるように言う。


言われたブレイクは怪訝けげんな顔をしていた。


何故ならば、そこから見える建物たてもの和菓子屋わがしや――いや、たい焼き屋しかなかったからだ。


すでにも落ちているため、店のたい焼きのかたちをした看板かんばんはライトアップされている。


バイオニクス共和国でナンバーワン! とデカデカと書かれた文字と、カラフルな照明しょうめいで光っているたい焼きの看板がコミカルさをさらに際立きわだたせていた。


「……ふざけてんのか?」


「なんで?」


「どう考えておかしいだろ? 暗部あんぶ組織そしきのメンバーが、なんでたい焼き屋で集合しゅうごうすんだよ」


「そう? アタイが最初にここへ来たときはしっくりきたけど」


「オレはテメェの感性かんせいうたがうわ」


「だってだって! アタイたち暗部組織だよ! つまり、暗部のアンとたい焼きのアンをかけてるってことだよ。共和国の模試もしで一位なのにそういう柔軟じゅうなん発想はっそう苦手にがてみたいだね」


「なにが柔軟な発想だ。笑わせんじゃねぇよ。そういうのをふるい言葉でこういうんだ。親父おやじギャグってな」


「誰が親父だ! アタイめっちゃギャルだし!」


「テメェは名前といい、言葉づかいといい、すべてチグハグだな」


あきれたブレイクはアイスクリームトラックを降りると、ヴィクトリアがプンスカおこりながら追いかけてたい焼き屋へと入る。


店員のいらっしゃいませという声がし、ブレイクは店内を見渡みわたした。


彼の着ている服にマッチした和風わふうつくりのテーブルや椅子いしならんでいる。


どう見ても普通ふつうのたい焼き屋だ。


だが、めずらしいのは店員がドローンではなく人間がやっていることだった。


そう思いながらもブレイクは、さっさと案内あんないさせろとヴィクトリアをうながす。


「すみません~めでたいをおねがいします」


ブレイクは、かる調子ちょうしで言うヴィクトリアを見て、もしかしてたい焼きのタイとめでたいのタイをかけているのかと、舌打したうちをする。


「チッ、合言葉まで親父ギャグかよ」


「だからアタイはギャルだっていってんでしょ!」


それから店員に店のおくへと案内され、二人はそこにあったふすまを開けた。


そこにはエレベーターがあった。


ヴィクトリアが言うに、これで地下へと向かうようだ。


二人はエレベーターへと乗り、先に着いていると思われるビザールのメンバーにいる部屋に向かう。


「そうそう、さっき車で話していた続きなんだけど。一人はリーディンでぇ、もう一人は男だよ」


ブレイクは、話しかけてくるヴィクトリアを無視むししてエレベーター内に目をやっていた。


何かを警戒けいかいしているわけではない。


これは彼のくせみたいなものだ。


ヴィクトリアは、話を聞いていないブレイクなど気にせずに言葉を続ける。


「エアラインって人なんだけど、としはアタイはタメでぇ、学校はいってないみたい。その四人が今回の任務のメンバーなんだけどぉ……って! ちょっとブレイクッ! あんたアタイの話し聞いてるッ!?」


「あん? 聞いてんよ。いちいちデカい声だしてんじゃねぇ」


「聞いているんならよろしい。でぇ、ちょうど小腹こばらく時間っしょ。そうだろうと思ってちゃんとたい焼きも注文ちゅうもんしておいたから」


ブレイクはまだ着かないのかと、エレベーター内にあった表示灯ひょうじとうを見た。


どうやらかなりふかいところまで下りて行っているようだ。


たしかにたい焼き屋の地下ちかで、暗部組織が落ち合っているとは誰も想像そうぞうしない。


ヴィクトリアの言っていた洒落しゃれはふざけていたが。


案外あんがいかくれ家なのかもしれないと、彼は思っていた。


「なにどうしたの? もしかしてもう一人が男で残念ざんねんだった? そうりゃそうだよね~。だって男のゆめのハーレムが任務であじわえると思ってたんだから。ま、そこはアタイのようなキレイなお姉さんがいるだけでもありがたいと思ってガマンなさい」


「あん? どこにキレイどころがいんだよ?」


「ここよここッ! 目の前にいるでしょ!? ホンット可愛かわいげがないんだから!」


そんなやり取りをしているあいだにエレベーターが止まり、二人は目の前にあった襖を開けて中へと入った。

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