#152

一台の車がバイオニクス共和国の道路どうろを走っていた。


外装がいそうや大きさを見るに移動販売用のトラックだろう。


そのボディには真っ黒な犬が、色とりどりのアイスクリームをめているイラストがえがかれている。


つまりアイスクリームトラックだ。


「おい、ヴィクトリアとか言ったな? なんだこのふざけた車は? メディスンの趣味しゅみかよ?」


助手席じょしゅせきでふんぞり返っている白髪はくはつの少年がそう言うと、ハンドルをにぎって運転している少女――ヴィクトリアが笑みを返す。


長いかみを二つに分けてむすんでいる快活かいかつそうな女の子だ。


「いいじゃない、アタイは好きよ。カワイイし」


「テメェのこのみなんていてねぇんだよ。オレが聞きてぇのは、わざわざこんなふざけた車を使ってる意味いみだ」


「ま、カモフラージュっしょ。そんないちいちカリカリしないでよ、ブレイクくん」


「気安く呼んでんじゃねぇ。つーかテメェ、オレのこと知ってんのか?」


「そりゃあのハザードクラスだもん。チョー有名人なんだから知ってて当たり前っしょ」


ブレイクとヴィクトリアはこれが初対面しょたいめんだった。


当然ブレイクはヴィクトリアのことを知らなかったが、彼女のほうはブレイクのことを知っていたようだ。


それもそのはず。


ブレイクは、バイオニクス共和国からもっと優秀ゆうしゅうな人間と認定にんていされているハザードクラスの一人だからだ。


くろがねブレイク·ベルサウンドといえば、共和国で誰もがおそれる最強さいきょう存在そんざいである。


だが彼はある事件以来、その二つ名の由来ゆらいとなった黒い日本刀に変化する黒犬――小鉄リトル スティールとは行動を共にしなくなっていた。


そして現在は理由わけがあり、バイオニクス共和国の暗部あんぶ組織そしきビザールのメンバーとなっていた。


「ねえねえ、その服さあ。めずらしいよね。どこで買ったの?」


れ馴れしいんだよ。ったく、あぶねぇからちゃんと前見て運転しろ」


「大丈夫っしょ。この車は自動ブレーキセンサー付いてるし。それよりさ、あんた一年生でしょ? アタイ、三年なんだけど」


自慢じまんすることがねぇヤツは、としが上とかくだらねぇことでエラそうにしやがるよなぁ。あーだーこーだ言う前にしっかり運転しやがれ」


「ちょっそれひどくないッ!? アタイはただ目上の人には礼儀れいぎ正しくって言いたかっただけなのにッ!」


ブレイクは現在共和国の成績せいせき優秀者がかようエリート学校の高校一年生だった。


どうやらヴィクトリアはそのことを知っていたようで、自分が上級生であることをつたえたのだが、かるたしなめられてしまう。


二人は今回、暗部組織の上司じょうしであるメディスンからの指示しじでコンビを組むことになった。


だがヴィクトリアのほうは詳細しょうさいを知らず、ブレイクは本来ほんらい任務にんむくはずだったジャガーに、ただヴィクトリアと合流ごうりゅうするようにとだけ聞かされていた。


「それよりもどこへ向かってんだよ?」


「うんとね。アタイが言われたのは、今回の任務の参加メンバーを全員あつめろって」


「あん? まだ合流するヤツがいんのかよ。チッ、人が多いのウゼェな」


「いいじゃんいいじゃん。なんでも人数が多いほうが楽しいっしょ」


「ふざけやがって……。任務はパーティーじゃねぇんだぞ……」


ブレイクは思う。


こんな軽薄けいはくな女が、どうして暗部組織に身を置いているのか。


メディスンの話では、ビザールにいる多くの人間が止むをない事情じじょうから参加しているか、または刑務所けいむしょに入れられるはずだった者が、恩赦おんしゃ、いや裏取引うらとりひきによりメンバーとなった者ばかりだということだったが。


しっかりと高校にも通っているようだし、どうもこの二つ結びの女はそんなふうには見えない。


「あんたはほかのメンバーをほとんど知らないんだっけ?」


「ああ、オレはまだ新人ペーペーだからな。テメェは他の連中を知ってんのか?」


「うん、友だちだよ。でもま、一人はあんたと入った時期じきがそんなに変わんないけどね。たぶん、その子ことは知ってるんじゃないかな? ほら、こないだナノクローンが暴走ぼうそうした事件あったっしょ」


「ああ、上層部じょうそうぶ事実じじつをもみ消したヤツだろ。たしか天候てんこうあやつってたとかいう……なんつったか?」


「リーディンだよ。その子も今回の任務の参加メンバーで、しかもアタイの友だち!」


「訊いてねぇことを言ってんじゃねぇ」


ブレイクは、ヴィクトリアの態度に辟易へきえきすると、まどから外をながめた。

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