#132

プロコラットはそのまま車内放送でしゃべり続けた。


だが、その内容ないよう要領ようりょうないものだったので、聞いている人間にはあまりつたわらないと思われる。


せいぜい理解りかいできたのは、最初さいしょ宣言せんげんした列車強盗ごうとうくらいだろう。


後は言った本人もよくわかっていなそうだ。


「ああ~なんかメンドくさくなったな。ともかく、今からこの列車にあるモノはすべて俺たちがいただいた! 文句もんくのあるやつは運転席にきやがれ。相手になってやんぜ」


そう言ったプロコラットは放送を切ると、みがいていたミックスとジャガーはたがいに顔を見合わせた。


強盗ごうとうって……こんな堂々どうどうとやるもんなの?」


「まあ……あの人らしいけどなぁ……」


二人は食堂車で本人から強盗をやっていることを聞いていたが、そのあまりにも計画性けいかくせいのなさにあきれている。


それよりもどういうことだろう。


プロコラットは、今回科学列車プラムラインに乗りむにあたってあるルールを決めていたはずだ。


それは、名の知れた金持ちブルジョアが二組以上いた場合にかぎるはずだったというのに、何故今さらとミックスは頭をなやませる。


「おかしいよねぇ? たしか一等客室にいる金持ち学校の団体だんたいしかいないから、強盗はやらないって言っていたのに」


「……さっきの爆発ばくはつで気が付いたんだ」


腕を組んでまゆを下げているミックスへジャガーが言う。


先ほど貨物車をおそった武装ぶそう集団がさけんでいた。


ハザードクラスの一人――死の商人デスマーチャントと呼ばれるフォクシーレディの名を。


そのフォクシーレディは当然世界的にも有名ゆうめいな人物であり、そのうえ電化製品から軍の兵器へいきまで製造せいぞうしているエレクトロハーモニー社の女社長だ。


むしろ彼女以上の金持ちブルジョアのほうが少ない。


「きっとさっきのさわぎで、フォクシーレディがこの列車に乗っていたことがわかったんだろ」


「でもあの人、ベロベロにつぶれてなかった?」


「そんなことよりも、オレたち三等客室の貧乏人びんぼうにんに手を出すとは思えねぇが。一応全員でかたまっていたほうがいいな」


「よし、じゃあすぐにアミノ先生に知らせよう!」


それからミックスとジャガーは二手ふたてに分かれ、アミノがいる部屋とクラスメイトがいる部屋に声をかけにいった。


ミックスは自分が担当たんとうしているアミノと女子がいる部屋をノックしたが、反応はんのうがない。


彼はその後も声を出して知らせたがやはり返事がなかったため、失礼しつれいと思いながらもそのとびらを開けた。


「みんな!? どうしたのッ!?」


部屋の中では、女子たちがくるしそうにたおれていた。


ミックスが部屋に入ってきたことを気が付いた彼女たちは、顔を上げてて口を動かし、なんとか言葉を出そうとしている。


アミノもその中にいて、ミックスは彼女のそばる。


「先生!? 一体何があったんですかッ!?」


アミノもほかの女子たちと同じようにしゃべろうとはしているのだが、うまく言葉をはっせれない。


何よりもアミノと女子たちはひどい顔をしていた。


まるで全身の血がかれたかのように青白くなり、とても生きている者には見えない状態じょうたいだ。


「なんだよこれッ!? このままじゃみんなホントに死んじゃうじゃんッ!」


ミックスはアミノをふくめた女子たちをベットに寝かしていると、そこへ他の部屋に向かったジャガーが入って来る。


そのジャガーがいうに、どの部屋の人間も、アミノたちと同じように動くことも喋ることもできないでいるようだ。


「じゃあ、一等客室や二等客室の人たちも?」


「おそらく、この列車にいる乗客じょうきゃくたち全員だろうな」


「なんだよ……なんなんだよこの現象げんしょうはッ!? 誰かが伝染病でんせんびょうでも持ち込んだっていうのかッ!?」


「落ち着けよミックス。これはどう見てもプロコラットの仕業しわざだろ」


それからジャガーは自分が想像そうぞうしていることを話し始めた。


もし伝染病や細菌さいきん兵器でもばらかれているのなら、先ほどまで普通ふつうにしていた同室のクラスメイトがきゅうに動けなくなるのはおかしい。


考えられるの車内放送の直後。


プロコラットの強盗宣言と同時に皆が今の状態になったと考えるのが自然だ。


それに自分たち二人だけは問題なく動ける。


それはおそらくだが、食堂車で飲まされたあのみょう陶器とうきうつして飲んだ酒の影響えいきょうではないか。


「じゃあ……この状況はプロコラットがやっているってこと……?」


「ちょっと強引だが、そうすりゃ辻褄つじつまが合う。とりあえず今は動けるオレたちで、他の客室にいる連中をベットに寝かしやろう。ゆかうめいているよりはいくらかマシだろうからな」


「でも、鍵がかかっていたらどうするの?」


「んなもんぶっ壊して入りゃいいだろ。オレは二等客室へ行く。お前は一等客室のほうを頼むぞ」


そして二人は再び分かれ、他の客車にいる乗客たちのところへと向かった。

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