#131

――貨物車を出たミックスは、食堂車から自分たちの部屋がある三等客室へと向かうジャガーのうしろを歩いていた。


いつもなら適当てきとうなことを言ってふざける友人は、何故かだまったままだった。


声をかけようにもそんなジャガーを見たことがなかったミックスは、ひど戸惑とまどってしまっていた。


(なんかフォクシーレディあの人に言われたのかな?)


彼がフォクシーレディの連れていた幼女ようじょ――。


トライアングル、サードヴァ―、シヴィル三人を相手にしていたときに。


ジャガーが彼女と話をしていたが、その内容ないようをミックスは知らない。


「ねえジャガー。いろいろバタバタだったけどさ。誰も死ななかったし、列車も問題もんだいなく動いているし、ホントよかったよね」


ミックスは気まずい空気にえきれず、ジャガーに声をかけた。


するとジャガーは彼のほうを振り返って、いつもと同じ顔を見せる。


「ああ、そうだな。さっさと部屋にもどって寝ようぜ。なんかスゲーつかれちまったよ」


「えッ、おれたちとくに何もしてないのに?」


「うるせぇよ。強盗ごうとうカップルだわ、ハザードクラスだわとかかわりゃ精神的に披露ひろうするだろうが」


「たしかに……。あまり共和国では見ないい人たちが多かったね……」


ミックスはいつものかわいた笑みをかべるとジャガーも笑う。


よかった、いつもの彼だ、と思ったミックスは、もう修学旅行も終わりなのだとあらためて思っていた。


戦災せんさい孤児こじではなかったはずの行事ぎょうじ


まさか行けるとは思っていなかった修学旅行。


物心ついてから初めてバイオニクス共和国の外に出て、ほかの国を見ることができた。


この科学列車プラムラインや、宿泊先だった歯車はぐるの街ホイールウェイで関わるはずのない人と出会い、みじかい時間でたくさんの話をした。


それはすべて彼らの学校の担任たんにん教師きょうしアミノのおかげだ。


こうしてまた楽しい思い出ができたのだ。


寄付金きふきんを集めてまで頑張がんばってくれたアミノには感謝かんしゃしかない。


ミックスがそんなことを考えながら部屋の扉を開け、二段ベットのはしごに手をかける。


そのときにすでにベットで眠っていた同室のクラスメイトが、何かあったのかと声をかけてきたが、ジャガーがドローンの不具合ふぐあいだといって誤魔化ごまかした。


(よくそんなすぐペラペラとウソが思いつくよなぁ……)


ミックスは相変あいかわらずしたが回る友人に感心。


自分にはとても真似まねできないと思いながらベットへと体をあずける。


「あッ、みがくのをわすれてた……」


「そんなもん、一晩ひとばんくらい大丈夫だろ?」


「そうはいかないよ。兄さんも姉さんも眠る前にはかならず磨くようにっていつも言ってたんだから」


「はいはい、お得意とくいのブラコンシスコンが出ましたね」


「ブラシスコン言うなッ!」


「いや、だからそんな略称りゃくしょうで言ってねぇから……」


そして二段ベットから降りたミックスは、ジャガーにも歯磨きするように言って、彼のことも部屋の外にある洗面所に行こうとさそった。


「ほら、早く行こう。このまま寝たら虫歯むしばになっちゃうよ」


「だ·か·ら~一晩くらい磨かなくても虫歯なんてならねぇよ」


「うるさいぞ、ホモカップル。夫婦ふうふゲンカならここでしないで外でやってくれよ」


ジャガーは行くことをこばんだが、他のクラスメイトに文句もんくを言われて渋々しぶしぶついて行くことに。


それからせまい洗面所内でかがみを見ながら歯を磨く二人。


その鏡には、しっかりと歯ブラシを動かしているミックスと、面倒めんどうくさそうに磨いているジャガーがうつっていた。


「ジャガー早いって。まだ磨いて一分もってないじゃないか」


「え? オレはいつもこんなもんだけど?」


二人が歯の磨き方について話していると、当然列車のはじ設置せっちされていたスピーカーから車内放送が聞こえてくる。


「ああ~、これでいいんだよなユダーティ?」


今夜たくさん聞いた馴染なじみのある声。


ミックスとジャガーは、その声のぬしが誰であるかすぐにわかった。


「この俺、プロコラットとその恋人ユダーティは、これから列車強盗ごうとうをやるぜ」

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