#130

ジャガーを高校生なのかとうたがったフォクシーレディは、うすら笑いをかべてソファーから立ち上がった。


そして、貨物車のとびらの前に背をあずけているジャガーの目の前まで歩き、彼と向き会う。


「もしかしてあんた、闇の世界こっちがわの人間じゃないの?」


フォクシーレディがたずねたが、ジャガーはだまったままだった。


その顔からは感情は読み取れず、いつものゆたかな表情を見せる彼とは別人のようだった。


しばらく貨物車のはし視線しせんを合わせる二人。


だがそのとき、三人の幼女ようじょがフォクシーレディのコートを引っ張り始める。


「ねえねえおじょうねむくなってきちゃった……」


「サードヴァ―も」


「シヴィルも」


ミックスとあそつかれたのか。


幼女たちは今に閉じそうな両目をこすりながら、フォクシーレディに抱きつく。


そんな彼女たちの後ろには、つかれきった顔をしてたおれているミックスの姿すがたが見えた。


そして、遊びまわってボロボロになったせいか。


なんだかとら絨毯じゅうたんが泣き顔になっているように見える。


「たっぷり遊んで疲れたのかい? じゃあ、ラムズヘッドのやつむかえに来るまでそこのソファーで寝てな」


「ねえお嬢、ラムズヘッドはいつ来るの?」


「きっとおそくなるよ。あいつ、いつも仕事がおくれるもん」


「シヴィルもそう思う」


「そうだねぇ、こまった奴だよねぇ、あいつは。とりあえず来たら起こしてあげるから、さっさと眠りな」


フォクシーレディは口々くちぐちにいう幼女たちをソファーに寝かすと、ふたたびジャガーのほうを振り向く。


ジャガーは組んでいた両腕をくと、口を開いた。


「ずいぶんやさしいんだな。死の商人デスマーチャントと呼ばれるハザードクラスの一人が」


「そりゃそうだよ。この子らは、あたしが今の会社を立ち上げる前から一緒にいるんだから」


「へぇ、うわさのフォクシーレディがまさかの子連れとは知らなかったよ」


「あたしも知らなかったよ。まさか、最近の高校生がこんな物騒ぶっそうなもん持ち歩いているなんてね」


フォクシーレディがそういうと、ジャガーは着ていた作業用ジャケットの内ポケットに入れていた拳銃けんじゅうタイプの電磁波でんじは放出ほうしゅつ装置そうち――オフヴォーカーが無くなっていることに気が付く。


そして彼がフォクシーレディのほうを見ると、彼女の手にはそのオフヴォーカーがにぎられていた。


思わず冷やあせいてしまったジャガーだったが、すぐに落ち着きを取りもどしてたずねる。


「今の手品てじなはアンタの能力、抹殺戯言キリングジョークか?」


「さあ、どうだろうね? それにしてもずいぶんと使いんでいるじゃないか。まるで軍人さんが何年も使い続けたみたいだねぇ。手入れも行きとどいているし、うちの製品せいひんをここまで大事に使ってくれるなんて、商人冥利みょうりきるってもんだよ」


フォクシーレディは、手元てもとにあるオフヴォーカーをなめるように監察かんさつすると、ジャガーのほうへほうり投げる。


それを受け取り、すぐにジャケットの内側にしまった彼が口を開こうとすると――。


「ジャガー……おれらもそろそろ戻ろうよ」


フラフラになっていたミックスが声をかけてきた。


ジャガーはそうだなと返事をすると、フォクシーレディのことを一瞥いちべつして、半壊はんかい状態じょうたいの貨物車から出て行った。


そんなない彼を見たミックスは、あわててフォクシーレディに頭を下げる。


「ごめんなさいッ! 彼はいつもはもっと明るくて楽しい奴なんだけど、さっきの武装ぶそう集団のせいか、気が立っているみたいで……」


「別にかまわないよ。ところで、あんたとあいつの名前を聞いてなかったねぇ」


「そ、そうでしたね。 俺はミックス、ミックス·ストリングです。出て行っちゃったボサボサ頭のほうはジャガーって言います」


「“ミックス·ストリング”と“ジャガー”ね。おぼえたわ」


「それじゃ、俺たちももう部屋で寝るんで失礼しつれいします」


そういうとミックスは先に出て行ったジャガーを追いかけて行った。


のこされたフォクシーレディは、半壊した貨物車の壁の外から夜空をながめる。


「……そうかい。こりゃ共和国に行くのが楽しみになってきたねぇ」


そして、星空を見上げながら高らかに笑った。

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