#124

その若者の集団は、五台のジープに乗って科学列車プラムラインの横に張り付いている。


どうやら先ほどの衝撃と音は、彼らが発射はっしゃしたロケットだんによるもののようだ。


「あんたら、次は貨物車をねらえ! そこにあの女がいるはずだ!」


武装ぶそうした若者集団のリーダーらしき少女が同年代どうねんだいの男たちに指示しじを出している。


(前時代の武器にあの時代じだい錯誤さくご法衣ほうい……奴ら、永遠なる破滅エターナル ルーイン脱走だっそうへいか)


永遠なる破滅エターナル ルーインとは、かつて人類じんるいほろぼそうとした暴走ぼうそうコンピューターをあがめる宗教しゅうきょう団体である。


どうやらジャガーが見るに、今攻撃を仕掛けてきた集団の正体は永遠なる破滅エターナル ルーインのメンバーで、しかもすでに組織そしきから抜けている者たちのようだ。


彼女たちは、着ている宗教団体を象徴しょうちょうする法衣をボロボロに着崩きくずして、いかにもアウトローなたたずまいをしているのが、組織を抜けたとわかった理由りゆうだろう。


ジャガーは武装した集団を見て考える。


古臭ふるくさいとはいえロケット弾やバズーカの火力かりょくあなどれない。


この科学列車プラムラインがそう簡単にこわれるとは思えないが、このままでは不味まずい。


(でも、標的ひょうてきは別にプラムラインってわけじゃなさそうだな)


彼女たちの狙いは貨物車輌しゃりょう


しかも、そこにいる女性に限定げんていされているようだ。


「なんかよくわかんねぇが。どうやらこっちの車輌には攻撃して来なそうだぞ」


「でもさ、ジャガーが聞いたことがホントなら貨物車にいる人が殺されちゃうよッ!?」


「心配いらねぇって。このプラムラインには万全ばんぜん警備けいびシステムが付いてんだ。そのうち作動してすぐに連中れんちゅうを追いはらってくれるよ」


「そんなこと言ってるうちに殺されちゃったらどうするんだよッ!」


そして、ミックスは貨物車へ行くために食堂車へと走っていく。


相変わらずのお人好しぶりだ。


別に貨物車にいる女が知り合いでもないだろうに。


ジャガーはそう思いながら大きくため息をついた。


「なんであいつは“ああ”なのかねぇ。おかげでこっちは苦労くろうしっぱなしだよ」


そして、物凄ものすごいやそうな顔をしてミックスの後を追っていった。


二人が食堂車を出て貨物車との連結部れんけつぶから外を見ると、ジープからバズーカをかまえた少年たちが一斉いっせいち始めている。


すでに作動している警備システムが、列車の横は走るジープをねらって電磁波を撃ち返しているが、さすがに五台のジープからの攻撃に対処たいしょしきれないようだった。


それを見たミックスは、慌てて貨物車のとびらに手をかけた。


このままでは警備システムが破壊はかいされ、避難しないとバズーカの餌食えじきになってしまう。


一刻いっこくも早く別の車輛に逃げないといけない、と彼は扉を開けた。


「すみません! 早くこっちの食堂車に来てください! じゃないとバズーカで吹き飛ばされ……って、あれ?」


貨物車は、外観がいかんこそふるびたものだったが、中にはシャンデリアや絨毯じゅうたん、さらにはベットのように大きなソファーなどがあり、一等客室の部屋よりも豪華な造りになっていた。


さらに虎の敷物しきものが目に入り、そこにはソファーですわっている女性の姿すがたが見えた。


「誰だい? ノックも無しに勝手かってに入って来たのは?」


女性は不機嫌ふきげんそうに言うと、彼女の周りにいた三人の少女がミックスのほうを見る。


ミックスはきつねにつままれたような気持になっていた。


自分はたしかに貨物車輛の扉を開けたはずなのに、ここはまるで高級ホテルののスイートルームだ。


一体何がどうなっているのかわからず、ミックスはその場に立ち尽くしてしまっていた。


「なにやってだよミックス。さっさとズラからないと……って、あんた……ハザードクラスのッ!?」


そんなミックスの後ろから部屋をのぞき込んだジャガーは、中にいた人物を見て両目を見開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る