#123

その後、プロコラットはどこからか出した陶器とうきを手に持つと、それにワインを流し込んだ。


そしてわざわざ陶器に入れたワインを、ミックスとジャガーの空いたグラスにそそぎ始める。


さかずきだぜ、兄弟ッ! これで俺は家族だ! たとえ遠く離れていてもここでかわわしたきずなはぜぇ~たいに切れねぇッ!」


ミックスとジャガーは高校生。


当然バイオニクス共和国では未成年の飲酒は禁止されている。


「おッ飲むつもりかよ、ミックス」


「うん。そんなに量も入ってないし。それにプロコラットとユダーティと会えた記念にね」


普段ならまず飲酒などしないミックスだったが。


二人と出会えたのが余程よほど嬉しかったのか、グラスに入ったワインを飲み干した。


それを見たジャガーは、やれやれといった様子でミックスに続き、同じくワインを一気にのどへ流し込む。


「よし! これで俺らは家族だぜッ! ヒック……ウィ~」


さすがにこれ以上酒を飲ませるのは不味まずいと判断はんだんしたユダーティは、プロコラットを連れて部屋に戻ることにした。


二人がもう戻るのならと、ミックスとジャガーもフラフラのプロコラットを運び、彼らと同じ三等客室の車輌しゃりょうへと向かう。


それから無事にプロコラットを部屋のベッドに寝かすと、頭を下げているユダーティに別れをげ、自分たちの部屋へと戻ろうとしていた。


「いや~楽しかったなぁ。でも二人がまさかあのヴィンテージと知り合いなんて、スゴいね」


「おいミックス。お前、あの話をマジで信じてんのか?」


あきれながらくジャガー。


だが、ミックスはそんな顔をしている彼を不思議そうに見返す。


「だってプロコラットってうそをつけるような人じゃないじゃん? まだ知り合ったばかりだけど、そう思わない?」


「まあ、たしかにそんなタイプじゃねぇけどさ。あれだけ酔っぱらってんだぜ。そこは聞き流せよ……」


どうやらジャガーとはちがい、ミックスは彼の話を真に受けているようだ。


全く相変わらず人が良いというかなんというか。


ジャガーは酔っぱらいの戯言たわごとを信じているミックスを見て彼の将来しょうらいが心配になっていた。


「まあまあ、それは置いといてさ。二人が列車強盗をしなくてよかったよね」


「そこは同意する。つーかめずらしいよな。お前があそこまで他人のこと好きになるなんて」


「なんか、あの二人を見てるとさ。兄さんと姉さんのことを思い出すっていうか……。まあ兄さんはプロコラットほどおしゃべりじゃないし、姉さんもユダーティみたいにおしとやかじゃないけど」


「なんだ、お得意とくいのブラコンシスコンのせいか」


「誰がブラシスコンだッ! 誰がッ!」


「いや、誰もブラシスコンとは言ってねぇよ……」


三等客室車輌の廊下ろうかで、二人はそんな会話をしていた。


けして口には出していないが、ジャガーもミックスと同じく、プロコラットとユダーティのことをこのましく思っていた。


過去かこにあれだけのことがあったというのに、今も笑顔を忘れずにいる二人――。


たとえ強盗というやり方でも人助けをしている彼らに、ジャガーは少しあこがれていた。


「やっぱ自分らしく生きてる人間ってカッコいいよな……」


「うん? 今なにか言ったジャガー?」


「ブラシスコンって言った」


「わざわざつぶやくなッ!!」


そのとき突然車輌に衝撃が走り、破壊音が鳴りひびいた。


さいわい、運行状況に問題はなさそうだが。


ミックスとジャガーはたがいに顔を見合わせる。


「なんだ今の音ッ!? もしかして事故じこッ!?」


「ずいぶんデカい音だったな。なんか故障こしょうでもしたのか?」


その衝撃と音を聞き、大あわてするミックス。


一方ジャガーのほう特に変わりなく、廊下にあったまどを開けて外を見始めていた。


「ヤバいよジャガーッ! 早くみんなを呼んで避難ひなんしないとッ!」


「ちょっと落ち着けよ……と言いたいところだが。こりゃ落ち着いてなんかいられねぇな……」


冷やあせくジャガー。


彼が窓から見たのは、武装ぶそうした若者の集団だった。

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