#122

おそらく殺し合った結果けっか相打あいうちになったのだろう。


それ以降いこうのプロコラットは、たとえ協力しなければ生きていけない状況じょうきょうだとしても、まずしさがあらそいを産むことを理解りかいした。


彼は、どうして貧困者ひんこんしゃが争わなければいけないのかを考えた。


そして、ある結論けつろんたっする。


「ようするに、金はあるところからうばえばいいのさ!」


刺青いれずみだらけの両腕を広げていうプロコラット。


そして、仲間をうしなったプロコラットとユダーティは、各国かっこくわたり歩いて金持ちからぬすみをはらき、その金を貧しい者――特に子供たちへあたえるたびを続けているそうだ。


その旅の途中とちゅう――。


たまたま知ったバイオニクス共和国とストリング帝国が協力して開発かいはつした科学列車プラムライン。


それに乗れば、きっとブルジョア連中が多くいると思ってチケットを取った。


だが、実際じっさいに乗ってみたらどうだ。


両国が力を合わせて造った豪華な科学列車だというのに、せいぜい共和国にある良いとこの学生がかよう学校くらいしか乗車じょうしゃしていないではないか。


せっかく胸をおどらせていたというのに、後は自分たちと同じ旅人や労働者、さらには寄付金きふきんでなんとか修学旅行に来ている学校。


これでは盗む金額も身代金みのしろきんも、とてもじゃないが期待きたいできない。


プロコラットが強盗ごうとうをするときは、名の知れたブルジョアが二組以上いるときと決めている。


そういう理由で、今回は列車強盗はをあきらめたそうだ。


「でもマジでよかったよ。なんせお前らと会えたんだから」


「もしかして……もし共和国のお坊ちゃんたち以外にお金持ちがいたらこの列車をおそっていたの?」


「そりゃそうさ! しか~しッ! そうはならなかった! いや~よかったなマジで。なあユダーティ?」


声をかけられたユダーティは、うれしそうに首を上下に振っている。


っぱらっているプロコラットだけならまだ冗談じょうだんを言っているだけかもしれなかったが。


そういう冗談を言いそうにないユダーティも頷いているということは、どうやらこの話は真実しんじつのようだ。


この二人は、本当にこの科学列車プラムラインに列車強盗をしようとしていたのか。


ミックスは、何はともあれそういう事態じたいにならなかったことに、ホッと安堵あんどの表情を浮かべる。


「よし! 仕事はなくなったし、今夜は飲み明かすぞッ!!」


その後もミックスとジャガーは、プロコラットたちと話を続けた。


食堂車はドローンが管理かんりしているため、二十四時間使用できるようだ。


他の客たちが自分の乗る車両の部屋へともどっていく中、四人はまだまだり上がっている。


「お前ら共和国から出たことねぇのか? 外は面白いぞ。まあ、そのぶん物騒ぶっそうだけどな」


「面白いって、具体的ぐたいてきに言うとどんなことだ?」


「そりゃ……あれだ。ほら、あれだよあれ」


ジャガーがたずねると、プロコラットは思い出そうと両腕を組んでむずかしい顔をする。


そんな彼にそっとれるユダーティ。


すると、プロコラットの表情はパッと明るいものに戻った。


「そうだ! アンだよ、アン! お前らでも知ってんだろ? あのアン·テネシーグレッチをよぉッ!!」


「アン·テネシーグレッチって……もしかしてヴィンテージの?」


ヴィンテージとは、七年前の戦争――アフタークロエ前に起きたコンピューターの暴走を止めた救世主たちのことだ。


現在生存しているのは、アン、ローズ·テネシーグレッチ姉妹しまいとノピア·ラシックの三人だけで、プロコラットのいうアンとはその筆頭ひっとうである人物。


彼はそんな伝説の英雄と友人なのだと言葉を続けた。


「アンはなぁ……俺たちの……ヒック……ダチ、いや家族なんだよぉ……ヒック」


だが、もう呂律ろれつの怪しいその姿を見ているとどうも信用できない。


ジャガーは酔っぱらいの戯言たわごとだと思っていた。


おそらく、どこかでアンと会ったのは本当だろう。


だがそれを友人や家族というのは、どうなのか。


(まあ、プロコラットならちょっと話しただけでもそう言いそうだよなぁ……)


ジャガーはそう思いながら、酔いの回ったプロコラットを心配するユダーティを見て、大きくため息をつくのだった。

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