#121

「そっか、二人にはそんなことがあったんだな。でもプロコラット。肝心かんじんの列車強盗につながる話がまだ出てきてないんだが?」


今までだまって聞いていたジャガーが口を開いた。


だがそのみょうに軽い態度たいどを見て、ミックスが彼に向かって怒鳴どなり出す。


「今の話を聞いて、どうしてそんな態度がとれるんだよ!?」


「なに怒ってんだよ? オレはただ最初に聞いたことが出てきてないっていただけだろ?」


「俺が言いたいことがわかんないのか!? こういうのはデリカシーの問題だろ! デ·リ·カ·シーのッ!」


ミックスは余程よほどはらが立ッたのか、ギャーギャーワーワー子供のようにわめき続けた。


だが、怒鳴られているジャガーのほうはうんともすんとも言わない。


そんなミックスのことを見かねたのか、ユダーティが彼のかたをポンポンとたたいて止める。


私は気にしていないよとでも言いたそうな微笑ほほえみ。


そんな笑顔を向けられたミックスは、彼女を見てすぐに喚くのを止めた。


それはもう上官じょうかんに言われて整列せいれつする軍人のようにピタッと。


「ああ、こりゃ相当そうとう好きになってんなぁ……」


ジャガーはそんなミックスを見てつぶやいた。


どこかあきれているように見える言い方だ。


それからプロコラットの話が再開さいかい


研究所がおそわれ、もう殺されると思ったプロコラットとユダーティ。


だがそのときに突然ある男が現れ、永遠なる破滅エターナル ルーインのメンバーをすべて打ち倒したそうだ。


なつかしいなぁ、ロウルおっさん。なあユダーティ!」


ユダーティはプロコラットに声をかけられ、うんうんとうなづいている。


どうやら二人と他の子供たちは、ロウルという中年男性に助けてもらったようだ。


「ロウルねぇ……。どっかで聞いたことある名前だな」


ジャガーがくびかしげていたが、プロコラットは気にせずに続きを話し出す。


ロウルという男にすくわれたプロコラットたちは、その後国を出て子供たちだけで生活をしていた。


なんでも捨てられた廃材はいざいや機械をひろっては、使える部品や鉄を売って暮らしていたらしい。


プロコラットは、そのぐらいの時期にユダーティへプロポーズしたようだ。


最初こそ戸惑とまどっていたユダーティだったが、彼の熱意ねついに押されて二人は付き合うようになった。


だが、当然ゴミを売って暮らすだけで食べていけるはずもなく。


彼らは犯罪はんざいに手をめるようになる。


「それでもあのころはまだ楽しかったことも多かった……。だが、だんだんとうまくいかなくなっていったんだ……」


プロコラットたちがいたグループは、犯罪を始めるようになってからしばらくして分裂ぶんれつしていったそうだ。


きっと金の価値かちがわかってきたのもあったのだろう、二人のいたグループはたがいにいがみ合い始めた。


なんでお前らがそんなにかせいでいるんだ。


ここはこっちの縄張なわばりだぞ。


――と口で言い合っているうちはよかったが、ついにあらそいだしてしまった。


だが、それでもプロコラットとユダーティは思っていた。


ここにいる人間は皆仲間だと。


こんな小競こぜり合いはすぐに終わり、また一致いっち団結だんけつするだろうと。


自分たちは大人のせいでひどい目にった者同士なのだ。


二人は分裂したグループの仲間たちに必死ひっしで声をかけた。


争う必要はない。


また以前のように協力し合おうと。


しかし、酷い目に遭った者たちの欲望よくぼうが答えをせまってきた。


お前たちはもっと贅沢ぜいたくをしたくないのか?


同じ目に遭ったとはいえ、五体の満足な者もいればもう歩くこともできない奴もいる。


気に入らない奴もムカつく奴もいる。


そんな連中を食わすために、どうして我慢がまんしなければいけないんだと。


――そして、プロコラットたちは気絶きぜつさせられ、二人が目覚めたときにはすべての仲間が死体へと変わっていた。

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