#120

プロコラットの言葉を聞いたミックスとジャガーは少し戸惑とまどったが、すぐに笑みを返す。


そんな冗談じょうだんを言わないでほしいと返事をし、カウンターにあるドリンクに手をばした。


「冗談じゃねぇよ。なあユダーティ」


プロコラットは笑いながらとなりの席にすわっているユダーティに声をかけた。


話を振られたユダーティは、コクッと笑顔でうなづている。


「えッホントなの!? ホントにホントに列車強盗するつもりだったのッ!?」


ミックスは笑ってこそいるが、うそではないと言い続けるプロコラットに向かって声を張り上げた。


一方ジャガーのほうはただだまったまま、手に取ったドリンクを飲み続けている。


プロコラットはそんな二人を見ると、持っていたワインのびんゴクッと飲むと、自分たちのこと――昔話を始めた。


プロコラットは、七年前のバイオニクス共和国――きゅうバイオナンバーとストリング帝国の戦争後――。


共和国による援助えんじょを受けた国で生まれたそうだ。


そのころの彼やユダーティは、今のミックスたちと同じ十五歳くらいだったという。


「共和国の連中が来たことで、まずしかった俺たちの国は変わったんだが……」


七年前のバイオニクス共和国は、世界中の国へ戦争で勝って手に入れたストリング帝国の科学技術を、連盟れんめい国に公開こうかいつたえる活動をしていた。


プロコラットとユダーティのいた国もその一つだった。


だが、話はそれで終わらなかった。


「奴らは俺らの国に研究所を建てやがって、そこから地獄じごくが始まったんだ」


プロコラットの国がゆたかになり始めた頃。


バイオニクス共和国の科学者が、彼らの国に研究所を建てた。


なんでもその研究所では、両親をうしなった子供たちに勉強を教え、将来的しょうらいてきには仕事をあたえるのが目的だったらしい。


その理由を胡散うさんくさく感じたプロコラットは研究所行きをこばんだが、ユダーティは多くの子供たちと共に参加した。


だが、そこでは勉強など教えずに、ただひたすら薬物やくぶつ投与とうよとその効果を調べるための切開せっかい手術しゅじゅつおこなわれていた。


中にはのうの反応を見るために、頭蓋骨ずがいこつを開いて脳を何等分かに切り分ける手術もあったそうだ。


「毎日何人も死んでは焼却炉しょうきゃくろに捨てられてたんだってよ」


プロコラットがうつむいているユダーティの背中をさすりながらいう。


ミックスは、ユダーティの全身と顔の傷は、そのときにつけられたものだと理解した。


研究所にいたユダーティは、脳のほうの実験はされなかったようだが、代わりに声帯せいたいを調べられた。


その後、実験の影響えいきょうで声も出せなくなり、現在にいたる。


そして、当然実験体がれば補充ほじゅうしなければならなくなる。


プロコラットはそのときに、研究所による両親のいない子供をすく名目めいもくで行われた人狩りによってつかまった。


だが、幸か不幸か。


そのときに現れた宗教団体――。


永遠なる破滅エターナル ルーインによって研究所は破壊され、多くの子供が共和国の悪魔の子として殺された。


「そんときなんだよ。俺がユダーティに一目惚ひとめぼれしたのは」


研究所は焼き払われ、永遠の破滅のメンバーが銃器を持って子供らを殺そうしている中――。


ユダーティは逃げ遅れた者や、自分よりも幼い子を守るために彼らのたてになっていた。


プロコラットはそんな彼女の姿を見て、もうこの女しかいないと惚れてしまったらしい。


そのときのユダーティの立ち姿があまりにも美し過ぎて、今でも目に焼き付いて離れないようだ。


「どうだミックス、ジャガー!! ユダーティは優しくかわいくてキレイなだけじゃなく勇敢ゆうかんさまで持った女なんだッ!!! こいつよりもイイ女なんてこの世界のどこにもいねぇだろッ!!!」


話題わだいは重苦しいものへとなったが。


プロコラットがユダーティを褒め続けるのは変わらない。


そして、彼の言葉に恥ずかしがるユダーティも変わらない。


見た目は怖いが、実に気さくで優しい二人にはかなり辛い過去があった。


だがミックスには、それでもこうやって幸せそうに笑い合っている二人の姿がとてもまぶしく見えていた。

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