#114

ミックスとジャズは完成かんせいした料理をリビングへとはこぶ。


その料理はもちろんミックスが宣言せんげんしていたようにハンバーグオムライスだ。


彼の家秘伝ひでんのデミグラスソースを使ったオリジナルレシピによる一品いっぴんで、たまごつつまれたチキンライスの上にハンバーグが乗っていて、さらにハードがたに切られたチーズがかざられている。


テーブルへとはこばれていく四人前のハンバーグオムライスを見て、ニコがはしゃいでいた。


デミグラスソースとチーズのハーモニーに、さらには出来立できたてのハンバーグからは食欲しょくよくをそそるにおいに電気でんきひつじも大よろこびのようだ。


「ふふーん、どうよニコ。今回はあたしも手伝ったんだからね」


自信じしん満々まんまんにいうジャズ。


ミックスはそんな彼女を見て口をはさむ。


「なんのまだまだだよ、ジャズ。ハンバーグオムライスの道は長く、そしてけわしいのです」


「なによえらそうに! このチーズだってあたしがハート型にしようってアイデア出したんじゃない! それだけでも美味おいしさがすってもんでしょ!」


ジャズはビシッと人差ひとさゆびでハンバーグオムライスをさした。


それは、自分がこの美味しそうな料理に貢献こうけんしたのだというアピールだ。


だが、ミックスもニコもそのギザギザでゆがんだハート型のチーズを見て、にがい顔をしている。


「うーん、二十八点」


「はぁッ!? なにあんたが点数てんすう付けてんのよッ! しかもなによその低評価ていひょうかはッ! せめて五十点くらいはいってるデキでしょッ!?」


「いや、これで五十点はいかないでしょ……。だからおれ道具どうぐを使ったほうがいいっていったのに」


さらに苦い顔をするミックスに同意どういしたのか、ニコも彼と同じ顔をしてメェーといている。


しかしジャズは納得なっとくがいかないらしく、このいびつなハート型チーズの採点さいてんはサービスが決めるのだと言い出した。


そして、ミックス、ジャズ、ニコたちがソファーでねむっているサービスをこそうとすると――。


「サービス……? どうしたのよ――ッ!?」


彼女の体がちゅうへとゆっくりき始め、その長い前髪まえがみかくれた両目りょうめを開いた。


そして、ミックスたちに向かって丁寧ていねいにその小さなあたまを下げた。


「みっくす、じゃず、にこ……ありがとう。あたし……もうかえらなきゃ」


さびしそうに口を開いたサービスは、宙に浮いたまままどのほうへと移動いどうしていく。


彼女が動くと、不思議ふしぎなことにしまっていた窓が開き、夏の終わりを感じさせるすずしい風が部屋へと入って来る。


夕涼ゆうすずみへとさそうような心地ここちい風だ。


だが、そんな心地の良い風も今のジャズには感じられなかった。


彼女はサービスが何をいっているのかわからず、必死ひっし形相ぎょうそうで窓へと向かっていく。


「待ってサービスッ!」


止められたサービスはニッコリと微笑ほほえみ、空から見える夕日ゆうひに手をばした。


それから彼女の体から小さなひかりが舞い始め、部屋の中にいるミックスたちをつつんでいった。


「しんぱいしなくてもだいじょうぶだよ。あたしはいつもみんなといるよ」


「なにいってるのよサービスッ!?」


「たとえきえちゃっても……あたしはいつもみんなをみてるから……。みんなにはみえなくても……ずっとそばにいるから……」


サービスのはなった星空のような光に包まれながら、ジャズはなみだながしていた。


それは彼女が、もうこの天使てんしのような幼女ようじょを止めることはできないと思ったからだ。


それでもジャズは涙をぬぐわず、無理に笑顔を作る。


「サービス……また、会えるよね?」


「うん、もちろん……」


サービスはそう返事をすると、夕日の中に消えていった。


それからミックスたちは彼女の残した光が消えるまで立ち尽くし、冷める前に食事を取ることにする。


四人前のハンバーグオムライスを見たジャズは、ミックスからもらったハンカチで涙を拭いながらつぶやく。


「料理、あまっちゃったね……」


「うん……」


覇気はきなくいうジャズに、ミックスも元気なく返す。


そんな二人を見ていたニコは、いきなり自分の分のハンバーグオムライスを食べ始めた。


あまりの食いっぷりにミックスとジャズは唖然あぜん


二人は言葉をうしなう。


そしてニコはあっという間にたいらげると、サービスのために作った料理に手をつけだす。


「もうっニコったら、そんなにお腹が減っていたの?」


「そんなわけないだろジャズ。ニコ、無理しないでいいから三人で分けよう」


ミックスとジャズは、そんなニコを見て笑みを取り戻す。


ニコは笑ってくれた二人を見て、苦しそうな嬉しそうな顔をしながらコップの水を飲み干した。

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