#113

自宅じたくりょう到着とうちゃくしたミックスは、途中とうちゅで買ってきた食材しょくざいをキッチンにならべて早速さっそくばんご飯の支度したくに取り掛かっていた。


そのよこには、おそる恐る包丁ほうちょう具材ぐざいを切るジャズがいて、ミックスは心配しんぱいそうに彼女のことを見ている。


「やっぱわろうか?」


「いい、大丈夫だいじょぶ。あたしだって少しは料理できるようになったんだから」


ジャズの住むストリング帝国ていこくでは、料理をする者などほとんどいない。


それは、オートデッシュという自動じどう調理器ちょうりきがあり、自分で料理しなくともカロリー計算けいさんされた物が作れるからだった。


当然とうぜんストリング帝国と同じ科学力かがくりょくを持つバイオニクス共和国きょうわこくにもオートデッシュはあるが、帝国とくらべて自分で料理をする者が多い。


それは味の問題もんだいであり、ジャズは共和国ではじめてミックスの作ったものを食べたときに、その美味おいしさにおどろいて以来いらい、自分でも料理をするようになっていた。


「ああ~! 包丁ってなんでこんなに使いづらいのかしらッ! これならサバイバルナイフほうがぜんぜんいいわ!」


「サバイバルナイフで切られた食材しょくざいはなんかヤダだなぁ……」


ジャズは軍人であるせいか、れない包丁に文句もんくをいうと、ミックスが怪訝けげんな顔をする。


二人のやりとりを見てわかるとおり、ジャズの料理のうではまだまだのようだ。


ミックスとジャズが料理しているあいだ、サービスはまだ眠っていた。


今の彼女は、リーディンが持っていた経典きょうてんアイテルのちからおさえたときとはちがい、もとの黒いかみもどっている。


それが不思議ふしぎだったのか、ニコはソファーで眠っているサービスの長い髪をもてあそんでいた。


つけっぱなしのテレビでは、先ほど起きた事件がながれていたが、ニコの関心かんしん幼女ようじょの髪色の変化へんかのようだ。


ミックスはそんなニコをながめると、なんとか食材を切り終えたジャズのほうを見る。


「ねえ、ジャズ。サービスのことなんだけ……」


ミックスは、先ほどアミノから来ていたメールの内容ないようを話し出した。


どうやらアミノは共和国の内情ないじょうくわしい人間に話を聞いたらしく、メールにはサービスの正体しょうたいについて書かれていたようだ。


まずサービスを追っていたと思われるアイスランディック·グレイ。


バイオニクス共和国きょうわこくの自然エネルギー、再生さいせい可能かのうエネルギーの権威けんいであり、共和国内すべての電力をまかなっている太陽光たいようこう発電はつでん水力すい発電、風力ふうりょく発電、地熱ちねつ発電装置の開発者かいはつしゃ


その老人が引退後いんたいご上層部じょうそうぶと進めていた人工神クロエ クラフト計画というものがあり、そこで


ルーザーリアクターと呼ばれる自然しぜんエネルギー技術ぎじゅつよういた永久えいきゅう発電はつでん機関きかん開発かいはつされた。


サービスは、その永久発電機関を心臓しんぞうに持つ人工じんこう生物せいぶつである。


アイスランディックは、ついに神を造り上げたとおのれを信じ、上層部とはちが独自どくじ実験じっけん勝手かってはじめた。


それは、意思いしを持たない神に自我じがあたえることだった。


アイスランディックの考えは――。


もし神の力を持つ幼女が世界をいらないものと考えればバイオニクス共和国をほろぼされ、または世界が必要なものと考えればめぐみをあたえるという二択にたくだった。


上層部は当然そんな危険きけんな実験をゆるさず、アイスランディックは指名しめい手配てはいになったようだが、まだつかまってはいないようだ。


「そっか、だからリーディンはあの本の啓示けいじがどうとかでサービスのことを……」


ジャズは切った食材をさらうつす手を止めた。


話を聞いておどろいているのか、それとも科学者の興味きょうみ本位ほんいで自我を与えられたサービスに同情どうじょうしているのか。


背を向けて顔の見えない彼女が今どう思っているのか。


「じゃあ、これからもあたしたちがあの子をまもらなきゃだね」


振り返ったジャズの表情ひょうじょうは笑顔だった。


ミックスにはわかっていたことだ。


ジャズはサービスの正体がなんだろうが、初めからそういうことはわかりきっていた。


それを少しでも悲観ひかんして考えてしまった自分がなさけないと、ミックスは自重じちょうして彼女に笑みを返した。


「その通りッ! サービスはこれからもずっと俺たちの友だちだよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る