#109

空中くうちゅうへと飛びあがり、経典きょうてんアイテルに手をばすミックス。


だが、当然とうぜんごと豪雨ごううと共にかみなりが彼に振りぐ。


ミックスは機械化きかいかした両腕りょううででガッチリと防御ぼうぎょしたが、その衝撃しょうげきそばにあったビルへとたたきつけられる。


「ミックスッ!?」


ジャズがミックスを心配しんぱいしてさけぶ。


しかし、彼は自分のことよりもリーディンへ声をかけ続けるように叫び返した。


それを聞いたジャズは、かたちくずれてしまっている自分のかみ――サイドテールの位置いちなおすとふたたびリーディンに向かって声を張り上げる。


「リーディンッ! おねがいだからもうやめてッ! このままじゃあなたまでその本にやられてしまうわッ!」


「うるさいッ! 帝国ていこくの犬がッ!」


だが、リーディンはジャズを拒絶きょぜつする。


彼女のとってストリング帝国の将校しょうこうであるジャズは、自分たちを皆殺みなごろしにしようとした侵略者しんりゃくしゃにしかうつっていないだろう。


かたきのいうことなど聞けるかと、くるしみながらジャズへ雷光らいこうはなつ。


しかし、やはり経典を制御せいぎょできていないのだろう。


雷はジャズに直撃ちょくげきせず、彼女の右腕をかすめただけだ。


だが、それでもかなりの重傷じゅうしょう


皮膚ひふの肉は焼けげ、火傷やけどといえるレベルをえている。


もうもと状態じょうたいにはもどらないくらいまでただれてしまっている。


しかし、それでもジャズはひるまない。


強烈きょうれついたみにえながらもリーディンに声をかけ続けた。


加害者かがいしゃだった自分では、被害ひがいを受けたリーディンに何もつたわらないかもしれない。


彼女のいうサービスの正体しょうたいが何なのかもわからない。


だが、それでもまだ幼いサービスをきずつけること、無関係むかんけいの人間に被害をおよぼすことは間違まちがっていると、彼女は叫ぶ。


「あなたは人の痛みを知っている! だから共和国きょうわこくに来たんでしょ!? あなたがいう化け物というのを止めにきたんでしょ!? それは、自分たちみたいな目にう人を無くすためじゃないの!? それなのにこんなに大勢おおぜいの人を傷つけたら……おかしいよッ!」


「あ、あなたは、どうしてそこまで……。うッ!? ぐわぁぁぁッ!」


リーディンがジャズの言葉に耳をかたむけたかと思うと、彼女の体がくずはじめていた。


ジャズは目の前の光景こうけいが信じられなかった。


それは、ちゅういている彼女の体の皮膚ひふが、まるでたまごからのようにがれ出したからだ。


剥がれた皮膚はそのまま空中で消滅しょうめつしていき、その傷口きずぐち部分ぶぶんからは、経典やバラバラになったページと同じような禍々まがまがしいひかりかがやいている。


「リーディンッ!? これはどういうこと――ッ!?」


「ワ、ワタシの体に限界げんかいにきただけよ……」


剥がれていく部分が次第に広がっていくトレンチコートの少女は、自分の覚悟かくごしていたのかっすらと笑っていた。


当然とうぜんのことよ。ワタシはただ啓示けいじを受けただけ……。加護かごあたえられたわけじゃない。それなのに経典の力をすべて引き出したのだから、こういう結果けっかにもなる……」


「あなた……結果的にそうなるってわかっていてやったのッ!?」


「それがワタシにできる唯一ゆいいつのことだっただけ……。せめて、そこの化け物だけでも道連みちづれできれば目的もくてきたせるわ」


「ダメやめてッ! あなたは死んじゃダメッ! ライティングは生きてるのッ! あなたは生きてもう一度彼と会わなきゃダメよッ!!」


「ありがとね……。あなたのうそ……最初さいしょはムカついたけど、いのちをかけてまでついたハッタリだと思うと、れいを言いたくなったわ……」


「リーディンッ!!!」


ジャズが叫んだが、リーディンにはもう意識いしきはなさそうだった。


空中でグッタリとしている彼女とはぎゃくに、空はさらにれ、雷が雨のごとく降りそそぎ、竜巻たつまきが街を崩壊ほうかいさせていく。


「こんなの……もうあたしじゃ止められない……」


ジャズはそのすままじい光景を見て、地面じめん両膝りょうひざをついてしまっていた。


もう見ていられないのか、そのままうつむき泣きながらすなむ。


《だいじょうぶだよぉ、じゃず……。あたしがいるよぉ……》


そのとき、ジャズのあたまの中に聞きおぼえのある幼女ようじょの声――サービスの言葉が聞こえてきた。

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