#108

禍々まがまがしいひかりはな経典きょうてんアイテル。


リーディンによってちゅうほうられた経典はそのページを開き、その一枚一枚がバラバラに空へとう。


バラバラに舞った無数むすうのページがそれぞれかがやき、それと呼応こおうするかのように雷鳴らいめいひびはじめた。


「なんなのよこれッ!? 一体何がきてるというのよッ!?」


「これはこの地球ほしいかりよ。かつて暴走ぼうそうコンピューターにそのちからうばわれた神々かみがみのねッ!」


リーディンが空中くうちゅうからさけぶと、突如とつじょかみなりが落ち始めてあたりの建物たてもの破壊はかいしていく。


タワーマンションもビルも雷光らいこうつつまれ、一瞬いっしゅんにしてほぼすべてが半壊はんかい状態じょうたいになった。


「こんなの……おれたちに止められるの?」


ミックスは驚愕きょうがくしながらつぶやいた。


科学かがく説明せつめいできないちからなら、以前いぜんに戦ったブレイクとクリーン――ベルサウンド兄妹きょうだいのを見ていた。


犬が日本刀にほんとうへと変化へんかし、それを持つ者がありない力を発揮はっきするという現象げんしょうだ。


だがこのトレンチコートの少女リーディンは、その領域りょういきかるえている。


天候てんこうを思いどおりにあやつるなど、彼女のいっているようにまさしく神の力だ。


「彼女、リーディンはあのぶあつい本を開くことで、森羅しんら万象ばんしょうをエネルギーのパターンとしてとらえ、それを変化へんかさせることができるってことなの?」


「そういう分析ぶんせきもいいけど、どうするのジャズッ!? このままじゃヤバイよッ!」


冷静れいせいに経典アイテルの理屈りくつを考えるジャズに、ミックスがあわてながらたずねた。


すでにリーディンが操る雷や突風とっぷうにより、通行人つうこうにん建物たてものから非難ひなんした人たちが大怪我おおけがをしていたからだ。


だが、リーディン本人ほんにん制御せいぎょできていないのだろうか。


その攻撃こうげき無差別むさべつであり、これまでなるべく関係かんけいない者は巻き込まず、執拗しつようにサービスだけをねらっていた彼女のやり方とは思えない。


実際じっさいに、空中から天候を操っているリーディンの表情ひょうじょうには、すさまじい苦痛くつうの色が見て取れた。


何かをおさえ込もうとしているような、そんな様子だ。


「ミックス……あたし、彼女を止めたい。それはサービスをまもるためだけじゃない。街も彼女もみんなが笑顔で終われるようにするために……。手をしてくれる?」


「ようするにハッピーエンドを目指めざすってことだよね。当然とうぜんッ! でも、そいつは俺の専売せんばい特許とっきょだよジャズ!」


顔を合わせ笑い合う二人。


そして、ジャズは宙に浮かんでいるリーディンへと声をかける。


「どうしたのよリーディンッ!! こんなやり方、あなたがもっともきらうことじゃないッ!」


そのさけび声に反応はんのうするように、空へと舞っている経典のページがかがやいた。


そして、ジャズに向かって雷光を振りそそぐ。


だが、彼女の前にはミックスが飛び出してきた。


ミックスは機械きかいうでかみなりを受け止め、空へとはじき返す。


「力に飲みまれないでッ! あなたは知っているはずでしょッ!? 巨大きょだいな力がおよぼす不条理ふじょうりを、理不尽りふじんさをッ!」


「ワ、ワタシは……ワタシは……」


ジャズの言葉を聞き、さらにくるしむリーディン。


経典アイテルの力を抑えようとしているようだが。


しょせんその経典から啓示を受けている彼女では、天空神てんくうしんの本体ともいうべきアイテルにはあらがうこともできなかった。


「ぐ、ぐわぁぁぁあぁぁぁッ!!」


リーディンは無理に抑え込もうとしたせいで、さらに経典の力が暴走ぼうそうしているようだった。


突風がくるま信号しんごう標識ひょうしきを吹き飛ばし、雷がすべての高い建物へとくずし、すでに半壊状態だった街をさらに破壊していく。


「こうなったらイチかバチか、あの本をズタズタにすれば止められるかな……」


「無理よ!? そんなことしたら雷に狙いちにされるわッ!」


「ジャズは彼女に声をかけ続けてやってよ。俺はあの本をなんとかするから」


「ミックスッ!? ダメェェェッ!」


ミックスはジャズに止められたが、その場から空中へと跳躍ちょうやくした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る