#105

非常ひじょう階段かいだんけ上がっていくジャズ。


横殴よこなぐりの雨で、すでにいているサービスまでずぶれだ。


だが、サービスは目をまさない。


かみなりひびこうが階段を破壊はかいしながら追いかけてくるナノクローンの足音あしおとすら聞こえていないのか、まだ両目りょうめを閉じたままだ。


ジャズはエレベーターを破壊され、非常階段をおさえられ、完全かんぜんに逃げ道をふさがれたために上を目指めざしたが。


屋上おくじょうに着いたところでどうすればいいかを考えていた。


「くッ!? せめて、なにか武器ぶきになるようなものであればッ!」


ジャズはまだ十五さいというわかさだが、ストリング帝国ていこうの軍人――しかも将校しょうこうだ。


バイオニクス共和国きょうわこく留学りゅうがくしてからもトレーニングをかかしたことはない。


たとえ戦闘用せんとうようドローンが相手だろうと、武装ぶそうさえしていれば一人でも戦える。


しかし、今の彼女は丸腰まるごしだ。


さすがのジャズでも素手すでで戦闘用ドローンをたおすことはできない。


どうやってドローンと戦うか、または逃げるかを考えながらも屋上へたどり着いた彼女は、周囲しゅうい見渡みわたす。


屋上にこのタワーマンションの電力でんりょくまかなっているソラーパネルと貯水ちょすいタンク、後は電波でんぱ受信用じゅしんようのアンテナらしきものが見える。


ジャズはさくから地面じめんを見下ろした。


自分だけならイチかバチか飛び降りるかもしれないが、サービスを抱いたままではまずたすからない。


ここでナノクローンをむかつしかない。


ジャズは覚悟かくごを決め、抱いていたサービスを貯水タンクのかげかくすと、上がってきた戦闘用ドローンと向かい合う。


キュィィィン、とけたたましい機械音きかいおんを鳴らすナノクローン。


装備そうびされているビーム兵器へいき――スモールコーラスの銃口じゅうこうをジャズへと向ける。


彼女はかがやき始めた銃口をおそれず、ナノクローンに向かって走り出した。


後ろにある貯水タンクに隠したサービスを狙わせないためだろう。


どう見ても無謀むぼうでしかないが、彼女をまもるためジャズに戸惑とまどいはない。


「ほらこっちよッ! 当てられるものなら当ててみなさい!」


ジャズは軽口かるぐちたたきながらナノクローンの死角しかくへと入りむ。


まさか非武装の人間が向かってくると思わなかったのか。


ナノクローンはを開けてからスモールコーラスの発射を中断ちゅうだん


ちょこまかとまわりを動き回るジャズをつかまえようと、左右さゆう上腕部じょうわんぶを動かした。


だが、やはり死角から死角へと動く彼女に翻弄ほんろうされている。


逃げ回りながらジャズは思う。


このまま逃げ続けていれば必ずミックスが助けに来てくれる。


自分は彼が来るまでの時間をかせげばいいだけだ。


それでサービスは助けられる。


だが、豪雨ごううと雷がさらにはげしくなり、屋上のゆかも水浸しになっている状態じょうたいっただ。


すでにサービスをここまで抱いて階段を駆け上がってきたのもあって、ジャズの体力も落ちていた。


そのため、彼女は攻撃を避けたときに足をすべらせてしまい、体のバランスをくずしてしまう。


「マズいッ!? 早く避けないとッ!」


すぐに体勢たいせいととのえたが、ナノクローンの腕がもう目の前まできていた。


ジャズは自分がやられることを覚悟かくごすると、突如とつじょ落ちた雷によってナノクローンの動きが止まった。


雷の電圧でんあつで何か重要じゅうよう回路かいろがショートしたのだろうか。


ブルーの戦闘用ドローンは完全に沈黙ちんもくする。


助かった、とジャズが安堵あんどの表情を浮かべていると――。


「安心するにはまだ早いわ」


声がした方向には、トレンチコート姿の少女――リーディンが立っていた。

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