#104

その後、動きやすい格好かっこう着替きがえてきたエヌエーは、旦那だんなであるブラッドと共に出掛でかけるという。


なんでも食材しょくざいを切らしていたらしく、これから買い出しに行くそうのだ。


「えッ! そんなのあたしが行きますよ!」


「そうですよ。それにおれは今夜ハンバーグオムライスを作らなきゃいけないし」


ジャズとミックスが自分たちが行くといったが。


エヌエーとブラッドからは、最初さいしょくらい家主やぬしのもてなしを受けるようにいわれ、二人は引き下がることに。


それから家主二人が消えた後にミックスは思う。


いくら自分たちが保護ほご対象たいしょうとはいえ、ほぼ初対面しょたいめんの人間だけ残して買い物へ行ってしまうのは不味まずいのではないか。


もし自分たちが悪い人間だったらとか、この部屋にある金目かねめのものがぬすまれてしまうとか思わないのだろうか。


ミックスはブラッドとエヌエーのあまりの善人ぜんにんぶりに心配しんぱいになっていた。


「なんか、あの二人が監視員バックミンスター隊長たいちょうふく隊長って……いろいろと大丈夫だいじょぶなのかな……」


つぶやくミックスの横でニコが彼に同意どういし、まるでため息をつくように心配そうにく。


それからジャズが抱いていたサービスをソファーに寝かすと、まどのほうへと歩いっていった。


タワーマンションの上層階じょうそうかいというのもあって、手をばせばくもにもとどきそうな光景こうけいだ。


しかしそんな景色けしきも、あいにくの天気。


弱まっていた雨も強くなって黒い雲が立ちめ、ゴロゴロとかみなりの音が鳴りはじめている。


「まるであらしでも来そうだね」


「うん、これじゃあエヌエーさんたちも大変たいへんだわ」


ミックスとジャズが、雨の中を出かけた二人のことを気にしていると、窓の外から機械音きかいおんが聞こえきた。


ジャズは、このタワーマンションの設備せつびか何かが作動さどうしたのかと思っていると――。


「ジャズッ! 窓からはなれてッ!」


ミックスのさけび声と共にある物体ぶったいが目に入った。


それは、無骨ぶこつ金属きんぞく装甲そうこうにブルーのカラーリングがほどこされている人型ひとがたのドローン――。


エレクトロハーモニー社がつくり出したナノクローンだった。


ジャズがあわてて離れると、ナノクローンは窓を破壊はかいして部屋の中へと侵入しんにゅうしてくる。


このタワーマンションにはセキュリティー対策たいさくがしてあるはずなのに、一体どうやってここまで上がってきたのか。


しかも監視員バックミンスターの隊長夫婦ふうふが住んでいるところをおそってくるなんて、まともな神経しんけいの持ち主じゃない。


だがナノクローンは無遠慮むえんりょに部屋へと入ってきた。


そして、そのねらいはやはりサービスだ。


ナノクローンはソファーで寝ている幼女ようじょへと、何のまよいもなく向かって行く。


「サービスに手を出すなッ!」


それをミックスが止めに入る。


機械化――装甲アーマードさせたうでで、向かってきたナノクローンの体を押さえる。


すでに部屋にあった家具かぐ電化でんか製品せいひんつぶされ、たった一瞬いっしゅんでずいぶんとひどいありさまになっていた。


「ジャズッ! 今のうちにサービスを連れて逃げてッ!」


ミックスにいわれたジャズは、サービスを抱きかかえると玄関げんかんのほうから向かう。


ニコはのこり、バラバラになったハンガースタンドの破片はへんを持ってナノクローンをたたいていた。


「ニコも早くッ!」


ミックスは叫んだが、ニコはくび左右さゆうに振りながらそれを拒否きょひ


少しでもドローンにダメージをあたえようと、必死ひっしになってハンガースタンドの破片を振っている。


そして玄関で足を止めていたジャズに向かって咆哮ほうこう


自分のことはいいから早くサービスを連れて逃げろと言っているかのように、大きく鳴いた。


ジャズはミックスたちの意思いししたがって部屋を出る。


彼女はエレベーターにってタワーマンションから脱出だっしゅつしようとしたが、ボタンを押しても反応はんのうはなく、動いてもいない。


しょうがなく非常用ひじょうよう階段かいだんを使おうと外へ出たが、その下からはもう一機いっきのナノクローンが上がって来ていた。


きっと先ほどのナノクローンからおくれてきているということは、エレベーターを止めたのはこいつだろう。


完全かんぜんに逃げ道をふさいでからあがってきたのだ。


「こうなったらもう屋上おくじょうへ行くしかないじゃないのッ!」


りようとしていた階段を上がることになったジャズは。ナノクローンに追いつかれないように全速力ぜんそくりょくけあがっていく。


そのとき、空をおおっていた黒い雲からは雷と豪雨ごうう、さらにはくるまさえも飛ばしそうな強風きょうふうき始めていた。

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