#103

エヌエーの自宅じたくであるタワーマンションに到着とうちゃくしたミックスたち。


中にいた坊主頭ぼうずあたまの男――ブラッドと顔を合わせて事情じじょう説明せつめいすると、彼は好きなだけいるといと言ってくれた。


ミックスたちは、挨拶あいさつを終えるとその広さにおどろいていた。


ゆとりある間取まどりをそなえた住戸じゅうこには、高水準こうすいじゅん


内装ないそうの仕上げがほどこされており、住む人間のライフスタイルが優雅ゆがであることがわかるものだ。


それにくわえ、ルーフバルコニーではバーベキューでもできそうな大きさで、2.7メートル以上いじょう天井高てんじょうだか


まさに高級こうきゅうマンションといえる住まいである。


監視員バックミンスターとは、そんなに給料きゅうりょうがいいのか。


たしかに人員が最低限さいていげんの人数で構成こうせいされ、隊員の数よりも警備けいびドローンのほうが多いのもあるが。


それにしても一般人いっぱんじんが住むようなマンションではない。


驚いているミックスたちを見たエヌエーが、笑顔で声をかけてくる。


「すごいよね、ここ。あたしたちももう何年もここでらしているんだけど、いまだに馴染なじんでないんだ」


なんでも彼女がいうには、このマンションはふるい友人からゆずってもらったものらしい。


バイオニクス共和国きょうわこくができたばかりのころは、安い四畳半よじょうはんのアパートに住んでいたらしいが、それを見かねた友人に言われてここへ住むようになったのだそうだ。


清貧せいひんもいいけど、苦労くろうしたお前たちが良い思いをしないと、親父おやじむくわれないだろうってね」


「メディスンのやつはいつもそんなことばっかいうからなぁ。そういうてめぇはどうなんだって話だよ」


友人を悪くいうブラッド。


だが、その様子ようすを見るに本心ほんしんからきらっているわけではなさそうだ。


エヌエーは何やらキョロキョロと室内しつない見渡みわたしていた。


それに気がついたブラッドが彼女が知りたかったことをこたえる。


「あいつなら出かけたぜ。なんか人と会うっていってな。だからばんメシはいらねぇって」


「えぇ~!? なんだよぉ……。せっかく同年代どうねんだい子たちを連れてきたのにぃ……」


ブラッドはしょんぼりしている彼女のことをなぐさめると、あいつが帰ってきてから紹介しょうかいできると声をかけた。


エヌエーはすぐに元気を取りもどし、ふく着替きがえるといって自室へ向かう。


ポカンと突っ立っているミックスたちに、ブラッドが適当てきとうにくつろぐように声をかけた。


ミックスたちは、それではとソファーにこしを下ろすと、何故だかブラッドがニコのことをじっと見つめていた。


「まいったなぁ……。本物ほんものにしか見えねぇ……」


そうつぶやいたかと思うと彼の目にはなみだがこぼれていた。


それは本人にも自分が泣いているとは気がついていないようだった。


ブラッドははにかみながら涙を手でぬぐう。


大丈夫だいじょうぶですかッ!?」


「ひょっとしてひつじ苦手にがてとかッ!?」


ミックスとジャズがあわてて声をかけたが、ブラッドは何でもないと二人にあやまる。


どうやら彼はエヌエーと同様、ニコと同じタイプの電気でんき仕掛じかけの仔羊こひつじに思い入れがあるようだった。


(こんな強面の人が泣くなんてきっととんでもないことなんたろうけど、正直しょうじききたくても訊けないな)


ジャズはブラッドがニコを見て泣いてしまった理由りゆうたずねかったが、今日会ったばかり人間に話してくれるはずないと思い、訊くのをあきらめる。


「さてと、じゃあゆっくりしててくれ。俺はちょっとエヌエーのとこ行ってくるから」


ブラッドはそういって立ち上がると、そのままエヌエーか向かったほうへと歩いていった。

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