#96

――今から数年前。


ルドベキアホールに身をかくしていたリーディンの所属しょぞくする宗教しゅうきょう組織そしき――永遠なる破滅エターナル ルーインは、バイオニクス共和国きょうわこくとの条約じょうやくによって出陣しゅつじんしたストリング帝国ていこく軍隊ぐんたいに追い詰められていた。


彼らの立てこもっていた炭鉱たんこうは、雪とこおりおおわれ、天然てんねん要害ようがいほこる場所とはいえ、帝国の圧倒的あっとうてきちからの前ではすべはなく、すでにただ死を待つだけの状態じょうたいだった。


「ライティング……。ワタシたち、このままころされちゃうの?」


リーディンはふるえながらライティングという少年に抱きついた。


それも無理ないことだ。


彼女をふくめて多くの永遠なる破滅エターナル ルーインに所属する子どもたちは、全員てられていたところを組織にひろわれ、しかたなくはたらかされているだけなのだから。


リーディンやライティングのような者には、永遠なる破滅エターナル ルーインかかげる思想しそうはないのである。


ただ生きるためだけに組織にいるだけなのだ。


「大丈夫、大丈夫だよ。ボクがリーディン、君と仲間たちだけは絶対ぜったいまもるから」


ライティングの何の根拠こんきょもない言葉だったが、リーディンは彼と一緒いっしょならと死を受け入れていた。


これまでの人生、ろくなことがなかった。


組織に奴隷どれいのように使われ、その思想も自分のすくいにはならなかった。


ほかの子たちのように、宗教しゅうきょうまってしまえばもっと楽だったかもしれない。


だがリーディンには、永遠なる破滅エターナル ルーインの思想――世界が滅亡めつぼうするべきだとはとても思えなかったのだ。


その最大の理由りゆうはライティングだ。


リーディンは彼が好きだった。


彼女は、何度も生きることにえられなくなったとき、いつもライティングの存在そんざいに救われていたからだ。


実際じっさいに彼は、同じ立場の子どもらからも信頼もあつく、何度も戦場へ出ては仲間を助けてきた少年だ。


このひどい世界でもライティングのような人がいる――。


リーディンは、それだけで世界はほろぶべきではないと考えていた。


「君たちはすでに包囲ほういされている。大人しく降伏こうふくしろ。日の出まで待つ」


炭鉱の外からは、ストリング帝国からの通達つうたつが大音量で聞こえて来ていた。


すでに弾薬だんやくもつきかけ、ろくな武装ぶそうもないこちらでは戦っても勝ち目はないのはあきらかだ。


しかし、永遠なる破滅エターナル ルーイン幹部かんぶたちは、絶対に降伏はしないとリーディンらにげる。


ここで死に花をかせ、世界にいる同志どうしたちに、自分たちの勇姿ゆうしを伝えるのだと、負けいくさ覚悟かくごしていどもうとしていた。


すでに戦意せんいのない――。


いや、最初からなかったであろうリーディンは、その言葉に身を震わせることしかできなかった。


「我が同志たち、教祖様イードの子らよ。安心するがいい。神は我らをまだ見捨みすててはいない」


幹部の男が壇上だんじょうからさけぶと、そのうしろにあったまくが開かれる。


そこには人型をした金属きんぞく――戦闘用せんとうようドローンがあった。


「このナノマフPI一機いっきのみでも十分じゅうぶんに勝てる見込みこみがあることを、提供ていきょうしてくれたラムズヘッド氏が我々におしえてくれた」


Nano Muff Personal Insight(ナノ マフ パーソナル インサイト) 通称つうしょうナノマフPI。


全高ぜんこう3.5メートル、重量じゅうりょう2.2トン。


ディストーション ドライブという高出力のビーム兵器へいき搭載とうさいした、ハザードクラスであるフォクシーレディが運営うんえいするエレクトロハーモニー社で造られたナノクローンの新型だ。


だが、たかが一機で戦局せんきょくを変えられるとは、その場にいる誰もが信じていなかった。


いくら新型といっても、相手はあのヴィンテージであるノピア·ラシック将軍しょうぐんひきいる軍なのだ。


マシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃにして英雄に数えられる彼にかなうはずもない。


だがそんな仲間たちを見ても、幹部の男は自分たちの勝機しょうきうたがってはいなかった。


「今からナノマフPIについて説明せつめいをする。それを聞けば皆にもわかってもらえるはずだ」


そして、そのエレクトロハーモニー社の新型――ナノマフPIのおそろしい機能きのうについて話し始めた。

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