#95

アミューズメント施設しせつないを逃げまわるジャズ。


いくら彼女が普段ふだんからきたえているとはいえ、サービスとニコをいたまま走り続けるのにもそろそろ限界げんかいがきていた。


走る速度そくど最初さいしょくらべれば落ちてきていて、リーディンはそんなジャズの背中せなか目掛めがけけてトランプカードを投げつける。


禍々まがまがしいひかりはなっているトランプカードは、ジャズがメリーゴーランド内に入りんだために、周囲しゅういあったうま馬車ばしょり物に当たり、まるで手榴弾しゅりゅうだんのように爆発ばくはつする。


リーディンが使っているちからは、経典きょうてんアイテルの込められた魔力まりょくによるものだ。


経典とトランプカードのあいだに自分の体を経由けいゆさせ、呪文じゅもんとなえることでカードに魔力を込めて投げつける。


その破壊力はかいりょくは、ストリング帝国ていこく電磁波でんじは放出ほうしゅつ装置そうち――インストガンにも引けを取らない。


本来ほんらいは神の加護かごを受けていないとしようできない魔術まじゅつではあるが。


リーディンは経典から直接ちょくせつ啓示けいじを受けているため使用できる。


「もうあなたも走りつかれたでしょ? いい加減かげんに休みなさいよ。ただし、ねむったらもう目覚めざめることはないけどね」


リーディンは次々にトランプカードを投げ続けていく。


すでにメリーゴーランドの屋根やねくずれ落ちて半壊はんかい状態じょうたいだ。


さすがに、これ以上いじょうサービスとニコをかかえて逃げるのは無理むりだと判断はんだんしたジャズは、サービスたちを崩れた馬車の下にかくすと、リーディンの前に姿すがたをさらした。


両手りょうてをあげて戦う意思いしがないことをつたえながら、彼女はリーディンに声をかける。


「まいったわ、降参こうさんよ」


「なに、いのちいでもするつもりなの?」


「そうじゃない。ただ、どうせころされるんなら、聞いておきたいことがたくさんあるのよ」


ジャズがそういうと、リーディンはトレンチコートの内側うちがわにある経典アイテルにれた。


経典はまだ近くにサービスがいることを知らせている。


おそらく近くの瓦礫がれきの下にでも隠しているのだろう。


どうやらこのストリング帝国ていこくの女は、幼女ようじょを逃がすための時間かせぎをしたいわけではなさそうだ。


死ぬ覚悟かくごをしてにあばれられるのも面倒めんどうだとでも思ったのだろう。


リーディンは持っていたトランプカードをおさめ、ジャズに聞きたいことをいうようにつたえた。


「リーディンっていったわね。永遠なる破滅エターナル ルーインの元メンバーだって話だけど、あんたはどこの地域ちいきにいたの?」


「ルドベキアホールよ。あそこは炭鉱たんこうをくりいて街をつくったところだから、テロリストにとっては身を隠しやすかったみたいね」


ルドベキアホールとは、雪と氷におおわれた大地にある炭鉱街だ。


むかしにはガーベラドームという球体型きゅうたいがた都市とりがあり、そこの王だったルドベキア·ヴェイス名をつけられた街である。


ルドベキア·ヴェイスは、かつて世界を暴走ぼうそうしたコンピューターからすくった英雄えいゆうの一人であり、アン·テネシーグレッチやローズ·テネシーグレッチ、ノピア·ラシックに加え、さらにはクリーンとブレイクの母親であるクリア·ベルサウンドと同じくヴィンテージに数えられた男である。


ルドベキアホールは、現在げんざいでも狂暴きょうぼうな動物が多く生息せいそくし、その雪原せつげんという土壌どじょうもあって、なかなかバイオニクス共和国きょうわこくでも完璧かんぺき管理かんりが行きとどかない地域でもある。


ジャズは、リーディンにルドベキアホールの生まれなのかをたずねた。


訊ねられたリーディンはくび左右さゆうに振って否定ひていする。


「自分の生まれたところがどこかなんて知らないわ。物心ものごころついたときにはもう組織そしきのためにはたらかされていたんだから」


どうやらリーディンは自分の故郷こきょうも知らず、おさなころから永遠なる破滅エターナル ルーインの手伝いをさせられていたようだ。


毎日雑用ざつよう武器ぶきの手入れ、さらにてきと戦うための訓練くんれんをさせられていたらしい。


「あなたも帝国の人間なら、ルドベキアホールで何があったかを知っているでしょ?」


リーディンにかれたジャズは、その表情ひょうじょうくもらせた。


その顔を見るに、彼女のとってあまり思い出したくないことなのだということがわかる。


ジャズは冷やあせきながら、リーディンから目をそらしたそうにしていた。


そんな彼女を見たリーディンが意地いじ悪く笑う。


「あら、あなたは知らないのかしら。おかしいわねぇ。なら、ワタシがおしえてあげるわ」


リーディンは笑みを浮かべていたかと思えば、つめたい声でそういうと、訊かれてもいないのに過去かこのことを話し始めた。

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