#97

Nano Muff Personal Insight(ナノ マフ パーソナル インサイト) 通称つうしょうナノマフPI。


全高ぜんこう3.5メートル、重量じゅうりょう2.2トン。


ディストーション ドライブという高出力のビーム兵器へいき搭載とうさいした、ハザードクラスであるフォクシーレディが運営うんえいするエレクトロハーモニー社製しゃせいナノクローンを進化しんかさせた人型の金属きんぞく――雪のように白い戦闘用せんとうようドローン。


同社どうしゃのナノクローンとの最大のちがいは、新たに組み込まれたシステム――Personal Insight(パーソナル インサイト)略称りゃくしょうPIによる機能きのうだ。


これはPIの恩恵おんけいにより、コックピットにった者の思考しこうをダイレクトに機械きかいへとつなげることができるという画期的かっきてきなものである。


ようするにこれまでの通信つうしんでの自動じどう操縦そうじゅう、または不慣ふなれな操縦そうじゅうけい操作そうさ無しに、まるで手足を動かすかのようにドローンを使用できるというものだ。


だが、そのためにはある処置しょち必要ひつようであった。


それは、ナノマフPIの性能せいのうを最大げんに引き出すには、コックピットに入った者の四肢ししをすべて義肢ぎしし繋げなければならない。


つまり幹部かんぶの男がいうに――。


誰かがこの場で両手りょうて両足りょうあしを切りて義肢手術しゅじゅつをし、目の前の軍隊ぐんたいと一人で戦えということだった。


それを聞いたリーディンは、幹部の男に言い出したお前がやればいいと思っていた。


だがこのラムズヘッドからわたされたナノマフPIはまだ試作機しさくき


そのため、コックピットは元々もともと戦闘用せんとうようドローン――ナノクローンと変わらないらしく、たとえ四肢を切り落としても大人が入れるようにできていないという。


「さあ同志どうしたちよ。われこそはという者は手をげてくれたまえ!」


興奮こうふん気味ぎみにいう幹部の男のことを、壇下だんかから見ている子どもたち。


当然とうぜんのことながら誰一人志願しがんする者などいない。


それは当たり前のことだった。


たとえこの戦いを生きのこっても自分の四肢――両手両足をうしなうのだ。


これまで生きるためにしょうがなく永遠なる破滅エターナル ルーインにいる子らからすれば、そこまでしたくはないと思うのは必然ひつぜんといえる。


「どうしたのかね? さあ早く誰か挙手きょしゅをッ!」


壇上だんじょうからはまだ幹部の男が声を張り上げている。


男は、しばらくしてしびれを切らせたのか、手が挙がらないのなら自分がえらぶことにすると言いだした。


彼は壇上からり、ならんでいる子どもたちの中をゆっくりと歩き始める。


リーディンはうつむきながら、自分がえらばれませんようにとその身をちぢめていたが――。


「よし、では君におねがいすることにしよう」


目の前で立ち止まった男に声をかけられてしまった。


何かの間違まちがいであってくれと放心ほうしん状態じょうたいになったリーディンだったが、幹部の男は無慈悲むじひに言葉を続ける。


「同志たちよ! ここに我々をすく英雄えいゆうが決まったぞ! 我らが勇者ゆうしゃに、どうか盛大せいだい拍手はくしゅ喝采かっさいおくってくれたまえ!」


リーディンはこれまで生きていて、ここまで他人たにんから称賛しょうさんされたことはなかった。


だがそんなリーディンをたたえる声も、今の彼女とっては有罪ゆうざい判決はんけつを受けたのと同じだった。


「ワ、ワタシには……無理むりです……」


リーディンのつぶやくような声も称賛の声や拍手にかき消されていく。


自分はここで帝国と戦わされて死ぬのか。


運良く生き残っても四肢を失うのか。


彼女はあまりの絶望ぜつぼうでうまく呼吸こきゅうもできなくなっていた。


嗚咽おえつらしながら、自分にはできないとさけぼうと必死ひっしになっている。


(もうダメ……ワタシに決まっちゃう……。ヤダ……戦うのも、手足を失うのも……ヤダッ!)


「ボクがやりますッ!」


リーディンが心の中で叫んだとき――。


ライティングがその手を挙げ、声を張り上げた。

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