#64

さらに、どす黒い瘴気しょうきをその身にまといながらジャズのことをにらみだす。


対面たいめんしているだけであせが止まらなくなる。


ジャズはすぐにでもブレイクの目の前からはなれたくなったが、それでも彼のいにこたえた。


自分がまだストリング帝国ていこくで少女兵だったころに見たクリア·ベルサウンドの鬼神きじんごとき強さ。


そして、彼女の友であるアン·テネシーグレッチを助けるために、まんてきの中へ向かって行くりんとしたクリアの姿すがたを。


息子むすこであるあんたの前でいうようなことじゃないけど。彼女――クリア·ベルサウンドは間違まちがいなく英雄えいゆうだわ。アンさんと共に世界をすくったのもうなづけるほどのね」


「アン·テネシーグレッチか……。あいつもいつかぶっころす……」


「はッ? なにってんのよあんた? アンさんはあんたの母親の友だちじゃない?」


「うるせんだよッ!」


ブレイクがさけんだのと同時どうじに――。


彼のまとっていた瘴気が衝撃しょうげきへと変わった。


ジャズはその衝撃によってき飛ばされてしまう。


「姉さんッ!」


そんな彼女をかばってウェディングが前に出た。


今度は先ほどとはちがい、われを忘れて飛びかかるよりも、ジャズの身をまもろうとしている。


「ちょっと!? いきなりどうしたのよあんたッ!?」


「うるせえうるせえうるせえッ! おふくろが世界を救っただぁッ!? んなこたぁくだらねえんだよッ!」


「くだらないなんてことは絶対ぜったいない! こうやってあんたが生きてるのも、あたしが生きているのも、すべてヴィンテージの人たちのおかげじゃない!」


ジャズの言葉にブレイクはさらに殺気さっきを高めていった。


その表情ひょうじょうはげしくゆがみ、まるで硫酸りゅうさんをかけられたかのような焼けただれた笑みをかべて虚空こくうながめている。


先ほどのウェディングのような我を忘れている状態じょうたいとは違う。


今のブレイクは何かとんでもない意志いしによって突き動かされているような、そんなふうに見えた。


「そういえばテメェ、ストリング帝国にいたっていってたなぁ? ならテメェをつぶしたら、ローズ·テネシーグレッチかノピア·ラシックは出てくんのかぁ? あんッ!?」


「姉さん下がってくださいッ!」


「ベルサウンド流、モード小鉄リトル スティール鉄風てっぷうッ!」


ブレイクがかたなを振るい、黒い斬撃ざんげきを飛ばす。


ウェディングはそれを手のこうから出したダイヤモンドの剣で受け止め、空へとはじき返した。


もし受けたのがウェディングでなかったら、真っ二つに切り裂かれていただろう凄まじい斬撃だ。


それを見たブレイクはさらに表情を歪めて笑う。


「かてぇな。ダイヤやっぱかてぇ」


そして、次の飛ぶ斬撃をり出す。


その攻撃は先ほどとは違い、まるではちの大軍のような小さな斬撃を飛ばしてきていた。


ウェディングはその無数の攻撃を弾き返したが、斬撃を受けた彼女の剣はヒビが入り、ところどころくだけてしまっていた。


「なッ!? なんでウェディングの剣がッ!?」


「テメェらクリーンと同じ学校だろ? 鉱物こうぶつがく授業じゅぎょうでやんなかったのかよ。世界一かたいダイヤモンドだって簡単かんたんに砕く方法ほうほうはあるんだぜぇ」


物質の硬さは通常つうじょうモース硬度という単位であらわされ、天然てんねんの鉱物のなかではダイヤモンドが最高位。


したがって日常生活に存在そんざいする物質のなかでは、ダイヤモンドが一番硬いといえる。


だが、そんなダイヤモンドもたたくと割れてしまうことがある。


なぜダイヤモンドが割れてしまうかというと、モース硬度というのは硬さの絶対尺度しゃくどというわけではないからである。


硬さという概念がいねんにはいろいろな尺度があり、たとえば叩いても割れないとか曲げようとしても曲がらないなどといったことも硬さの一要素いちようそにしかすぎない。


そして、モース硬度というのはきずのつきにくさを表した単位なだけで、叩いて割れるかどうかとは関係かんけいないのだ。


ダイヤモンドはせい八面体はちめんたい結晶けっしょうでできており、結晶内部は分子の相互そうご結合けつごう非常ひじょう強固きょうこになっている。


そのため、ダイヤモンドのモース硬度は高いが、八面体の一面のみに結合のゆるい部分がある。


それをへきかい面と言い、その面に対して平行に力をくわえることで、比較的ひかくてき簡単にダイヤモンドを割ることができるのである。


「授業はもう終わりだぁッ! 言いたいことがあんなら今のうちに言っとけよッ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る