#65

(なによ、母親の名前を出したらきゅういかくるって……。もしかしてこいつが上層部じょうそうぶ命令めいれいを聞いていることとなにか関係かんけいがあるの?)


不気味ぶきみに笑いながら飛びかかってくるブレイクに、ジャズの前に出ていたウェディングは身構みがまえた。


「姉さん、今は考えている場合ばあいじゃないです! 来ますよッ!」


ジャズはブレイクの態度たいど変化へんか思考しこうめぐらせているたが、ウェディングの声を聞いてあたまを切りえる。


つぶしてやるよッ! ハザードクラスもヴィンテージも、イキがってる連中れんちゅうは全部ぶっ潰してやるッ!」


ブレイクがにぎっていた黒いかたなを二人へ振り落とそうとした瞬間しゅんかん――。


ニコがさけびながら彼の前に立ちふさがった。


すると、黒い刀から出ている瘴気しょうきがブレイクの体を止め、カタカタとふるえだしはじめる。


「ニコッ! あんたなんてムチャするのよ」


ジャズは飛び出してきたニコをきしめたが、電気でんき仕掛じか仔羊こひつじはブレイクに向かって鳴き続けていた。


そのせいで黒い刀――小鉄リトル スティールはさらに震え、ブレイクの意思いしにはしたがわずに犬の姿すがたへと変化へんかする。


そして、ゆっくりとニコのそばへと近寄ちかよっていった。


小鉄リトル スティールは、ニコの顔に自分の顔を擦りつけ、弱々よわよわしい声を出す。


ニコのほうも、どうしてこんなことをするの? とばかりに、メェーメェー鳴き返していた。


「ちッ、スティールのダチかよ」


「スティールのダチって、そうかニコは……」


ジャズはかなしそうにじゃれあっている二匹を見て理解りかいした。


自分がアンティークショップでミックスに買ってもらったこのニコは、元々もともとアン·テネシーグレッチが所有しょゆうしていた電気仕掛け仔羊のコピー。


小鉄リトル スティールは、そのアン·テネシーグレッチと友人だったクリア·ベルサウンドが連れていた犬であり刀だ。


ニコとクリーンが連れていた小雪リトル スノー仲良なかよくしていたのことを思い出せば、小鉄リトル スティールもニコの姿すがたを見てなつかしさをおぼえるのは当然とうぜんだろう。


自分の連れているニコには覚えがないだろうが、少なくとも小鉄リトル スティールとっては友人なのだ。


ジャズはそう思うと、ニコとじゃれあう小鉄リトル スティールにそっとれた。


なぜ犬が日本刀にほんとうなるのかも、ロボットであるニコや犬の小鉄リトル スティールたちが人間のような感情かんじょうを持っているのかもわからない。


だがこの二匹は、これ以上いじょう戦ってほしくないことだけはつたわってくる。


ジャズはそう思うと二匹のことをいとおしく感じていた。


「ちッ、シラケちまったな。おいスティール、帰んぞ」


ブレイクに声をかけられた小鉄リトル スティールは、ニコの顔をめると名残なごりしそうに彼の後へと歩いていった。


ニコは、そんな小鉄リトル スティール背中せなかに向かって、かぼそい声で鳴いている。


屋上おくじょうの下からは、救急車きゅうきゅうしゃのサイレンの音が聞こえてきていた。


けたたましく鳴る音に、またした打ちをしたブレイクはそのまま屋上に設置せっちされていたフェンスに飛び乗る。


「おいテメェら、次はねぇぞ。あとクリーンにも言っとけ。二度とオレとかかわるなってな」


そして、ブレイクは小鉄リトル スティールを連れ、そのまま屋上から飛び降り、その姿を消すのであった。

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