#53

ブレイクのわざが決まり、ミックスの装甲アーマードされた身体から血がき出す。


まるでこわれた蛇口じゃぐちのように血をあたりへらし、機械化きかいかした部分ぶぶんからは血液けつえきと共に火花ひばなが散っていた。


ブレイクがニカッと笑うと小鉄リトル スティールが黒い犬の姿すがたへともどり、ミックスはそのままたおれてしまう。


「ミックスさんッ!?」


それを見ていたクリーンが彼にる。


だがブレイクは、そんなクリーンなど気にせずに倒れているミックスのあたまみつける。


「なんだよ、もう終わりか? こんなもんじゃ予行よこう練習れんしゅうにもならねぇ」


そして、その足をグリグリと動かし、動かなくなったミックスの顔を地面じめんへとめりませようとした。


ブレイクはそんないたみでうめくミックスを見て、じつに楽しそうにしている。


「でもまぁ、適合者てきごうしゃっていってもこんなもんなのかもなぁ。こりゃヴィンテージも思っていたより楽勝らくしょうれそうだ」


にいさまッ! その足をどけてくださいッ!」


「あん?」


クリーンに呼び掛けられたブレイクが振り向く。


彼はその身をふるわせているいもうとを見て、自身じしん両手りょうてを広げて口角こうかくをさらにあげる。


その笑みはまるで硫酸りゅうさんでもかけられたかのような、皮膚ひふただれて見えるものだった。


ブレイクはその笑顔のままクリーンに向かって口を開く。


「そもそもテメェがけしかけて来たんだろ? なのに、なんてツラしてんだよ」


「もう勝負しょうぶはついています。それ以上いじょうはやめてください」


「あん? 勝負ってのはなぁ。どちらかのいのちきるまでやるもんだろ」


ブレイクは、踏みつけていたミックスのことを無理矢理むりやりに引き起こした。


すでマシーナリーウイルスによる機械化きかいかかれ、生身なまみ腹部ふくぶからは出血しゅっけつが続いている。


クリーンは思う。


マシーナリーウイルスの適合者ですら兄にはかなわないのか。


いや、今はそんなことよりも、自分の身勝手みがってなおねがいを聞いてくれた友人の先輩せんぱいを助けなくては――。


「兄様……それ以上いじょう続けるなら、私もだまったままではいられないですよ」


クリーンが右手をばすと、彼女のそば小雪リトル スノーあらわれる。


このまま小雪リトル スノー日本刀にほんとうへと変え、兄であるブレイクにりかかろうといった感じだ。


すると、ブレイクは無理矢理に起こしたミックスを、クリーンのほうへとほうった。


まるで人形にんぎょうのようにされるがままのミックスは、クリーンの目の前でドサッと倒れる。


冗談じょうだんだよ、冗談。ったく、マジなんなっての」


ブレイクはためいきをつくと、クリーンに向かっておどけて見せた。


こんなのはあそびだ。


本気ほんきになるなんてどうかしていると。


「オレがこんなザコにマジになるとでも思ったのか? こんなよわっちい適合者なんかころ価値かちもねぇ」


クリーンはミックスの前でかがみ、彼のきず具合ぐあいを見ていた。


腹部がかなりふかく斬りかれてはいるが、臓器ぞうきまでにはたっしてはいない。


早く治療ちりょうを受ければ命に別状べつじょうはなさそうだ。


「おッ、どうやら来たみたいだぜ」


建物たてものの外からはサイレンの音が聞こえてくる。


どうやら先ほどの警報けいほうにより、この図書館でのさわぎを聞きつけた監視員バックミンスターがやってきたようだ。


ブレイクは面倒めんどうなのはごめんだと言い、クリーンにを向けてその場からろうとする。


「一ついっとくぞ。これからはもうオレにかかわるな。お前は学校でも行ってオトモダチとあそんでろよ」


「兄様……私は……クリーンは……」


クリーンが何か言おうとする前に――。


ブレイクは小鉄リトル スティールと共に姿を消した。


のこされたクリーンは、気をうしなっているミックスをきながら、うつむいて彼にあやまっていた。


そんなクリーンの姿を見た小雪リトル スノーは、かなしそうに鳴くと、自分の頭を彼女にこすりつけるのだった。

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