#54

それからミックスが目をましたのは、つぎの日のあさだった。


気が付くと病院びょういんのベットにいた彼がまわりを見ると、そこにはパイプ椅子いすすわったままねむっているアミノの姿すがたが見える。


彼女に声をかけようと体を動かすと、腹部ふくぶ強烈きょうれついたみが走る。


その痛みでミックスは思い出した。


「そうか……おれ、負けちゃったんだ……」


ミックスはクリーンに対し、安請やすうけ合いしてしまったことを悪く思っていた。


彼はなんだかんだいっても自信じしんがあったのだ。


たとえ相手がバイオニクス共和国きょうわこくえらばれたハザードクラスの一人だろうと、どうにか止められると。


自分の不甲斐ふがいなさにかわいた笑みをかべるミックス。


よく見ると全身に包帯ほうたいかれていて、これではミイラ男のようだと自嘲じちょうする。


そして、椅子に座ったまま眠っているアミノのほうを見た。


きっと自分が負けた後、クリーンがウェディングかジャズに連絡れんらくし、彼女を呼んでくれたのだろう。


ミックスは、いつも迷惑めいわくばかりかけてもうわけないと、眠っているアミノにあたまを下げた。


そして自分がブレイクに負けたことを、ウェディングとジャズ二人にも知られていると考えると、いたたまれない気持ちになる。


「俺って……自分で思っていたよりも見栄みえりだったんだなぁ……ハハハ……」


顔は笑っていてもかなしい声を出す。


彼はくやしかったのだ。


ブレイク相手に何もできなかったことが。


痛みよりもその感情かんじょうがミックスのこころくし、彼はそのままベットの上でうずくまった。


――そのころ


いつものように目をましたジャズが、学校の制服せいふく着替きがえて学生寮がくせいりょう食堂しょくどうへと向かっていた。


彼女と暮らしている電気でんき仕掛じか仔羊こひつじニコは、いつものようにまだ部屋で眠っている。


ジャズは階段かいだんを下りながら同室どうしつのウェディングが部屋にいないことと、昨夜さくやミックスが病院びょういん救急きゅうきゅう搬送はんそうされたことを考えながら、一歩いっぽ一歩ゆっくりと進む。


(ウェディングがあたしよりも先に起きるなんてめずらしい。……それにしてもあのバカ、また無茶むちゃして……。今度はなにがあったのよ)


ジャズはクリーンから連絡れんらくを受けたウェディングから事情じじょうを聞き、すぐにでも病院へ向かおうとした。


だがミックスにはアミノが付きうこととなり、朝から学校があるジャズとウェディングは早くねむるようにと注意ちゅういされたため、彼女は彼のもとへは行くことはできなかった。


昨日きのう――。


ファミリーレストランの前でミックスとクリーン二人とわかれた後に何かがあったことは明白めいはく


そういえば、あのときクリーンは何か用事ようじあるといっていた。

もしかしたらミックスは、そのクリーンの用事とやらに付き合ったせいで病院おくりにされたのでは、と彼女は考える。


「う~ん、でもそんな大怪我おおけがするほどの用事ってなんだろ? まあ、あとでクリーンに直接ちょくせつ聞いてみよっと」


ジャズはとりあえず後でクリーンにたずねてみることにし、寮の食堂へと足をみ入れると――。


「ジャズ姉さん、おはようございま~すッ!」


メイドふく姿すがたのウェディングが目の前にあらわれた。


彼女は唖然あぜんとしているジャズをせきすわらせ、微笑ほほえみながらこしっている。


「今日も一日元気にいくためにぃ~、私から姉さんのハートにえ萌えズッキューンッ!」


そして、両手りょうてでハートを作ってそれをき出す。


ほかのテーブルで食事を取っている寮生りょうせいの女子たちが、そんな二人を見てヒソヒソと何か話し始めていた。


「誰、あの二人?」


「ほら、最近さいきんストリング帝国ていこくから来た留学生りゅうがくせいとハザードクラスの子よ」


「うわぁ~朝からすごいね……」


寮に住むすべての女子たちの引いている声が聞こえる。


ジャズはそんな周囲しゅうい状況じょうきょうを見て、あわわとあせくと、ウェディングを連れてあわてて自室じしつへと引き返した。


そして、部屋に入るなり彼女に怒鳴どならす。


「ちょっとウェディング! 朝からなんなのよその格好かっこうはッ!?」


「あれ? ジャズ姉さんてきには朝ははだかエプロンのほうがよかったですかね? 私としては夕飯ゆうめしどきのほうがいかなと思ったんですけど」


「さらによくねぇよッ!」


それからジャズによる説教せっきょうが続き、二人が食事を取るときにはもう食堂は閉まっていたのだった。

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