#48

それからクリーンは、ミックスへたのみたいおねがいについて話しはじめた。


彼女の兄であるブレイク·ベルサウンドについてだ。


「ミックスさんはハザードクラスを知っていますか?」


「うん。たしかウェディングも入れられている共和国きょうわこくえらんだ、なんかスゴイちからを持った人たちのことだったよね?」


ハザードクラスとは、バイオニクス共和国から認定にんていされた最高さいこうクラスの能力のうりょくを持つ者のことである。


現在げんざい認定されている人間は五人――。


ブレイクは、その中でも共和国最強さいきょう名高なだかい高校生。


彼はそのくろ日本刀にほんとうと真っ黒な和服わふくを着ていることから、共和国の科学者かがくしゃたちからは“くろがね”と呼ばれている。


ウェディングが舞う宝石ダンシング·ダイヤモンドと呼ばれるように、ハザードクラスにはコードネームがあるのだ。


「私と兄は数年前にこのバイオニクス共和国に来ました」


クリーンは兄のブレイクがハザードクラスであることをつたえると、ふたたび話をもどした。


ブレイクはバイオニクス共和国に来てから、ある目的もくてきのために共和国上層部じょうそうぶ命令めいれいを受け続けている。


その上層部の命令はとても危険きけんなものばかりだ。


たとえば、こないだ共和国に侵入しんにゅうしようとした永遠の破滅エターナル ルーイン――。


かつて人類じんるいほろぼそうとしたコンピューターをあがめる宗教しゅうきょう団体だんたい鎮圧ちんあつなどである。


「兄はたしかに強い……ですが、クリーンはその身が心配しんぱいなのです」


今にも泣きそうな声でいうクリーン。


その表情ひょうじょうを見ているだけで、彼女がどれだけ兄を想っているのかがわかる。


それは小雪リトル スノーも同じで、その身をちぢめながら弱々よわよわしくいている。


だが、クリーンは泣きそうな顔を力強いものへと切りえた。


そして、すぐぐにミックスを見つめながら口を開く。


「しかし、ただの高校生であるミックスさんに敗北はいぼくすれば、共和国上層部も兄を見限みかぎり、もう命令を出さなくなると、私は考えました」


クリーンは現在バイオニクス共和国で最強といわれているブレイクが、ただの高校生――しかも戦災せんさい孤児こじかよう落ちこぼれの学校の生徒せいとやぶれれば、兄がもう戦わされることはないと思ったようだ。


たしかに、ハザードクラスであり、共和国で知力体力ともにトップと呼ばれている者が、名もない劣等生れっとうせい路上ろじょう喧嘩けんかで負けることがあれば、上層部の人間たちもブレイクに愛想あいそかすかもしれない。


クリーンはその可能性かのうせいけたい。


兄であるブレイクに、もう危険な戦場せんじょうへとおもむいてほしくないから。


まこと勝手かって無理むりなおねがいだということは重々じゅうじゅう承知しょうちしていますッ! でも……それでもどうか、このクリーン·ベルサウンドのたのみを、聞いてはいただけないでしょうかッ!?」


クリーンはそうさけびながらその場にひれし、地面じめんあたまをつけた。


小雪リトル スノーも彼女に続き、そのとなり土下座どげざをする。


今までの脱力だつりょく無気力むきりょくなクリーンとは思えない、声をった悲願ひがん


ミックスはその痛切つうせつ姿すがたを見て、大慌おおあわてで彼女のことを立たせる。


「わぁぁぁッ! 土下座なんてやめてよッ!? 俺がさせたみたいに見えるでしょッ!」


「なら……私のお願いを聞いて下さるのですか?」


立たされたクリーンは、今にも消えてしまいそうなかぼそい声でたずねる。


そんな彼女を見たミックスは、大きくためいきをつくとニッコリと微笑ほほえんだ。


「まだよくわからないけど。ようはクリーンのお兄さんに危険なことはしないでって言えばいいんでしょ? それくらいのことでいいんならやるよ」


「本当ですかッ!?」


「うん。まあ、ハザードクラス相手に俺なんかがどこまでやくに立てるかわからないけどねぇ」


「ありがとうございます……。うぅ……」


「うわぁぁぁあ泣かないでッ!? 俺がんばるからッ! ぜったいにお兄さんを止めてみせるから泣かないでよッ!」


なみだながすクリーンを見て、また大慌てするミックス。


そんな二人を見ていた小雪リトル スノーは、の落ちかけた空に向かって大きく鳴いていた。

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