#49

クリーンをなだめたミックスは、早速さっそく彼女の兄であるブレイク·ベルサウンドに会いに行くことにする。


話を聞いてすぐに行動こうどうを始めようとする彼にクリーンはおどろいていたが、彼は引きつった笑みを見せていた。


「いや~だってさ。そういうのって早いにしたことはないでしょ? それに明日になったらわすれちゃいそうだしね」


どうやらミックスは学校のテストの日がちかいらしく、テスト勉強べんきょうに追われ、クリーンとの約束やくそくを忘れてしまうかもしれないからだとこたえていた。


それを聞いたクリーンは、この人にたのんでよかったのだろうかと心配しんぱいになり、そのそば小雪リトル スノーもガクッと顔を落としていた。


そしてミックスたちは、すでにしずみかけていたが、ブレイクがいると思われる場所ばしょへと向かうことに。


「ねえクリーンのお兄さんの、ブレイクだっけ? 彼がいまどこにいるのかわかるの?」


「兄はおそらくまち図書館としょかんにいます。もうすぐ閉館へいかん時間ですからいそいだほうがいいですね」


「図書館かぁ。そういえば一度も行ったことなかったなぁ。よし、この機会きかいにテスト勉強は図書館ですることにしよう」


「テスト勉強ですか……」


「そうだ! 図書館ならきっと料理りょうりのレシピ本とかもありそうだよね。いや~楽しみだな~」


そんなことをあっけらかんというミックス。


これからハザードクラス――しかもバイオニクス共和国きょうわこく最強さいきょうとわれている男と戦いに行くというの――。


どうも緊張感きんちょうかんりない人だなと、クリーンはさらに心配になっていた。


「やはり私は、この人におねがいしてよかったのでしょうか……」


そうつぶやいたクリーンに、同じく不安ふあんになっていた小雪リトル スノー同調どうちょうするようにいた。


目的地もくてきちまでの道中どうちゅうでは、学校帰りにあそんでいたと思われる学生や、仕事しごとが終わった白衣はくい姿すがた科学者かがくしゃたちの姿が見えていた。


現在げんざいの時間は午後五時二十八分。


図書館の閉館時間は午後六時なので、先をいくクリーンは足早に歩く。


「へえ、ここが図書館かぁ」


ミックスたちがいた場所から図書館はそうはなれていなかったようで、少し歩いただけで到着とうちゃく


その外観がいかんまどがなく、共和国ないにある研究けんきゅう施設しせつとそう変わらない。


ミックスがそんな図書館を見てつまらないと思っていると、クリーンは中へと入って行く。


あわてて追いかけたミックスは、図書館内を見てその両目りょうめまるくしていた。


「図書館なのに本がないぃぃぃッ!」


図書館内には本はおろか本棚ほんだなすらなかった。


その広い空間くうかんには、何台なんだいかのコンソールがあるくらいで、後はすべてソファーや椅子いす、テーブルなどが置いてあるだけだ。


「知らなかったですか……?」


クリーンがあきれながらいうと、小雪リトル スノーはためいきをつく。


バイオニクス共和国の図書館にある書籍しょせきは、すべて電子でんしデータで管理かんりされている。


図書館の受付うけつけで自分の個人こじんIDを登録とうろくすれば、たとえ自宅じたくにいても書籍をりることができるというシステムだ。


借りていられる期間きかんは二週間。


しかもすでに借りられている書籍を、ほかの登録者は借りることができない。


借りられるものは電子書籍なので、何人借りることも可能かのうなのだが、そこは前時代ぜんじだいのやり方を受けいでいる。


いまだに古本屋ふるほんやかみのセールひんしか購入こうにゅうしないミックスにとって、本が一冊いっさつもない図書館は異様いよううつったのだろう。


それに司書ししょが、すべてドローンだというのもれない人間には不思議ふしぎ光景こうけいではある。


ミックスにとって、飲食店いんしょくてんやコンビニエンスストアの店員がドローンなのは慣れしたしんでいたが、専門的せんもんてき職員しょくいんである司書までドローンという現実げんじつに、彼はおどろかされていたのだ。


クリーンから図書館のシステムを聞いたミックスは、自宅で書籍を借りられるのならわざわざ図書館に来る理由りゆうがあるのかとたずねた。


「先ほどミックスさんがいっていたように、勉強をしに来るかたも多いのですよ」


「なるほど、じゃあお兄さんも勉強しに来ているわけだ」


「いえ、兄はしずかなところと人が少ない場所が好きなので」


「ふ~ん、そうなんだ」


たしかに館内かんないには人が少ない。


のこっている人たちも閉館時間が近いせいか、すでに帰り始めていた。


ミックスはクリーンの話から、ブレイクがどんな人物じんぶつなのかを想像そうぞうしていた。


ハザードクラスにえらばれていて、さらにバイオニクス共和国で最強といわれているというからてっきり粗暴そぼうな人間のイメージを持っていたが。


静かなところが好き。


人が少ない場所が好き。


――というからには、たぶん読書家どくしょかでクリーンのような落ち着いた人物なのだろう。


もしそうなら意外いがい簡単かんたんにこちらの話を聞いてもらえるかもしれない。


ミックスは、思っていたよりも早く解決かいけつしそうだと、内心ないしん安堵あんどしていた。


「それで、お兄さんはいそう?」


「もしかしたらこのフロアにはいないかもしれませんね」


この図書館は書籍のジャンルごとに階層かいそうが分かれていて、一階から四階まである。


ミックスたちは一階にブレイクがいないことを確認かくにんすると、二階に上がることにした。


「もしかして、あの人がお兄さん?」


二階へと上がり、奥に見えるソファーで真っ黒な犬と寝ている白いかみの少年がいた。


他には利用者は誰もいない。


それに、犬を連れていて髪の色が白いのはクリーンと同じ特徴とくちょうだ。


ミックスには遠目とおめで見ても、すぐにその少年がブレイクだということがわかった。


「はい、あれが兄で間違いないです」


「じゃあ、まずは自己じこ紹介しょうかいでもしとこうかな」


ミックスはブレイクの元へと向かい、ソファーで寝てる彼に声をかけた。


そんなミックスを見たクリーンは、慌てて彼を追いかけてきていたが――。


「あんッ? 誰だテメェ?」


すでに因縁いんねんをつけられてしまっていた。


ブレイクはソファーから身体を起こし、下からのぞむようにミックスを見ている。


「いや……あの……わたしはですねぇ……あなたのいもうとの……友だちというかなんというか……」


ミックスは、ブレイクにものすご形相ぎょうそうにらまれ、あせが止まらなくなっていた。

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