#47

それから場所ばしょ移動いどうしたミックスとクリーン。


ファミリーレストラン前からかなり走ったのか、まわりには先ほど二人があらそったことによる喧騒けんそうもなく、子どもたちがさよならの挨拶あいさつかわわしている。


クリーンはかがんで白い犬――小雪リトル スノーあたまやさしくでていた。


ミックスは、うれしそうにいている小雪リトル スノーと、それをいとおしそうに見ているクリーンの姿すがたから、先ほどのようなすさまじい戦いを仕掛しかけてきた人物と同じ人間とは思えないでいた。


この白い髪の少女は、なぜ自分におそいかかってきたのか?


ため必要ひつようがあった、あなたは強い――。


そして、きゅうかたなおさめた彼女の言葉の意味いみを考えていたが、結局けっきょくはわからない。


だがミックスは、クリーンにそのことをけず、ただ彼女のそばで立ちくしていただけだった。


「ミックスさん」


「は、はいッ!」


すると、突然とつぜんクリーンのほうから声をかけてきた。


ミックスは考え事をしていたのもあって、思わず声が上ずってしまう。


クリーンは立ち上がり、彼の目を見た。


小雪リトル スノーも彼女と同じように、ミックスのほうへ顔を向けている。


「当然の無礼ぶれいまこともうわけありませんでした」


そして、クリーンは慇懃いんぎんにそのあたまを下げ、小雪リトル スノーもそれに続いた。


ミックスはまだわけがわからないままだったが、そのことはもう気にしないでいいとこたえる。


「それでさ。どうしていきなり襲ってきたのかを話してもらいたいんだけど」


じつは、ミックスさんのことをウェディングに聞きまして……。それで、失礼しつれいながらあなたの強さをたしかめさせてもらったのです」


クリーンは、よくウェディングの話の中に出てくるミックスに、以前いぜんから興味きょうみを持っていたという。


とても優しく、料理上手じょうず差別さべつなく誰にでも気をつか素敵すてき先輩せんぱい


ウェディング自身じしんもミックスと出会わなければ、今のようにあかるく前向きな性格せいかくにはなっていないだろうと――そうクリーンは聞いていた。


「彼女がそこまで言う人と、私も会ってみたかったのですよ」


「う~ん、ウェディングはおれ影響えいきょうというよりは、もとからああいう性格だったと思うけど……」


クリーンは、くびかしげながらいうミックスを見て、クスッと上品じょうひんに笑う。


なんだか納得なっとくいっていない様子ようすの彼に、小雪リトル スノーまで嬉しそうに鳴いていた。


それからクリーンは話をもどした。


ウェディングから聞かされたこないだの事件じけん


ストリング帝国ていこくから来たブロードたちがこそうとしたテロ行為こうい


バイオニクス共和国きょうわこく象徴しょうちょうする管制塔かんせいとう――アーティフィシャルタワーでの出来事できごとを。


「私は彼女から事件の話を聞いたときに、ミックスさんがマシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃであることを知りました。あの、アン·テネシーグレッチような“ヴィンテージ”と同じちからの持ちぬしだと」


ヴィンテージとは――。


アフタークロエ以前に起きたコンピューターの暴走ぼうそうを止めた救世主きゅうせいしゅたちのことである。


現在げんざいでも生存しているのは、先ほど出た筆頭ひっとうともいうべきアン·テネシーグレッチと、ストリング帝国の将軍しょうぐんであるローズ·テネシーグレッチとノピア·ラシック両名りょうめいを合わせて三人のみ。


三人はマシーナリーウイルスの適合者であり、その身体を自在じざい機械化きかいか――装甲アーマードさせることができる。


クリーンは、その適合者の力を確かめるべく、ミックスに戦いを仕掛けたという。


最初さいしょはただ優しいだけの人と思いましたが。ミックスさんのこぶしを受けてみて、それが杞憂きゆうだったとすぐにわかりました」


「え~と、話が見えないんだけど……?」


ミックスがこまった顔でたずねるとクリーンはうつむいた。


表情ひょうじょうはよく見えないが、彼女がかなしんでいることがわかる。


「誠に勝手ながら、ミックスさんにおねがいがあるのです……」


「お願い……?」


クリーンはゆっくりと顔をあげていうと、ミックスがまた首を傾げる。


そして小雪リトル スノーは、身をふるわせているクリーンの足にいながらくぅーんと鳴いていた。


「兄を止めたい……。そのために力をしていただけないでしょうか?」

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