#39

強い風がく夜。


轟音ごうおん閃光せんこうほとばしる中を、一人の少年が歩いていた。


そのかみかみに真っくろ和服わふく姿すがたは、このバイオニクス共和国きょうわこくでもめずらしい容姿ようしだった。


彼の目の前には、法衣ほういをまとった武装ぶそう集団しゅうだんが見える。


その武装集団の名は永遠なる破滅エターナル ルーイン


かつてのアフタークロエ以前いぜんあらわれ、そのすさまじいちから人類じんるいほろぼそうとしたコンピューターをあがめる宗教しゅうきょう団体だんたいである。


永遠の破滅エターナル ルーインは、世界中に信者しんじゃがいるテロリスト組織そしきであり、バイオニクス共和国もストリング帝国ていこくにもテロ行為こういり返していた。


今バイオニクス共和国へ来ているのは、その各地かくちにいる団体の一角いっかくであろう。


その一角がぐんととのえ、かつてのコンピューターの意志いししたがい、共和国を滅ぼそうとおそいかかってきたのだ。


しかし、共和国の治安ちあん維持いじする組織そしき――監視員バックミンスター出動しゅつどうすらしていない。


そのため、永遠の破滅エターナル ルーインは好き放題ほうだいあばれていた。


彼らの使用しようしている武器ぶきじゅう爆弾ばくだんなどのぜん時代的じだいてきなものだったが、都市とし壊滅かいめつさせるには十分じゅうぶん次々つぎつぎに街を破壊はかいしていく。


その中を、白い髪をした和服姿の少年が笑いながら進んでいく。


そばに黒い犬を一匹いっぴき連れて。


「うん? 誰かいるぞ」


「かまわん、ころせ。われらが教祖イード様の思想しそう理解りかいできぬ者は、たとえ子どもでも容赦ようしゃするな」


少年と犬に気が付いたテロリストたちは、少年目掛めがけて一斉いっせい射撃しゃげき


このままはちにされてしまうことは、誰が見てもわかりきったことだった。


だが銃弾を受けたはずの少年は、無傷むきずのまま何事なにごともなかったかのように、テロリストのほうへと歩いてくる。


テロリストたちはあわてながらも銃を撃ち続けた。


さらに手榴弾しゅりゅうだんを投げたが、それでも白い髪の少年には傷一つついていない。


「えぇーい、どうなっている!? あれは本当に子どもなのかッ!?」


「ちょっと待ってください……。あの少年……まさかッ!?」


すべがない状態じょうたいのテロリストたちはさらにあわてていたが、その中の一人が少年の正体しょうたいに気が付き、そのふるわせはじめていた。


気が付いた男はその震えた手を動かし、少年の傍にいた犬がいなくなったことをゆびをさして言っている。


男のいうとおり犬はいなくなっていたが、少年は先ほどは持っていなかったはずのもの――日本刀にほんとうを一本その手ににぎっていた。


そのやいばは、まるですみりつぶしたかのように黒く、とてもじゃないが切れあじが良いとは思えないものだった。


「白い髪に黒いかたな……。ハ、ハザードクラスのくろがねだ……」


少年に指をさしていた男が弱々よわよわしく口を開いた。


男の言葉を聞いたほかのテロリストたちが、その名に身を震わせている。


少年の名はブレイク·ベルサウンド。


ハザードクラスと呼ばれる共和国から認定にんていされた最高さいこうクラスの能力のうりょくを持つ共和国最強さいきょう名高なだかい高校生である。


彼はその真っ黒な日本刀と真っ黒な和服を着ていることから、共和国の科学者かがくしゃたちからは“くろがね”というコードネームをあたえられていた。


「くッ!? いくらハザードクラスだといっても、休みなく攻撃を続けていればチャンスはあるはずだッ!」


テロリストのリーダーがさけぶとふたたび一斉射撃が始まった。


だが、やはり少年は無傷のままだ。


彼にとっては今宵こよい吹く強風と何ら変わりがないのだろう。


ウザったそうしながらも歩くのを止めずに近づいて行く。


「くそッ! 我らが神よッ! 我々に力をぉぉぉッ!」


テロリストがそう叫んだ瞬間しゅんかん――。


白い髪の少年ブレイブ·ベルサウンドは、握っていた黒い日本刀でちゅうを切った。


虚空こくうを切るなど意味いみがないと思いきや、られた刀からは黒い斬撃ざんげきはなたれる。


その斬撃でテロリストたちのほとんどが死亡しぼう


上半身と下半身に真っ二つにされた者や、くびを上を飛ばされた者の死体がそこらじゅうころがる。


かろうじて生きていた男が、斬り飛ばされた腕の部分を残った手で押さえていると――。


「弱ぇ、弱ぇんだよ……。そんな弱ぇ信念しんねんじゃ、オレにはとどかねぇ」


声が聞こえたと思ったら、いつのにか自分の首が飛ばされていた。

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