#40

春が終わり、すっかり陽射ひざしが強くなってきた午後ごご


居残いのこ授業じゅぎょうを受けさせられていたミックスは、友人でありクラスメイトでもあるジャガーととも帰宅きたくしていた。


二人ともさすがにあつくなってきているので、いつも着ている学校指定してい作業用さぎょうようジャケットは身に付けてはいない。


「うぅ、一生いっしょう懸命けんめいやってるのになぁ……」


たとえどんなに成績せいせきが悪くとも、真面目まじめに授業を受けている自分がなぜ居残りをさせられているのか。


ミックスは、そんな不条理ふじょうりを一人なげきながらトボトボ歩く。


「まあ、そういうなミックス。居残りもそう悪いもんじゃないさ」


ジャガーがそんなミックスを見て彼のかたをポンポンとたたく。


そして、今にもねむりそうだった目がきゅうかがやき出した。


「なんてったってアミノ先生と放課後ほうかごのこれるんだぞ! 今日だってお前が問題もんだいけないだけで泣き出してさ。最高さいこうじゃないかッ!」


「何がどう最高なの……?」


「わかんねえかな~。よし、説明せつめいしてやろう。女のなみだってのは、メイドふくやバニースーツみの破壊力はかいりょくがあるんだぞ」


「いや、おれは泣いている女性じょせいを見てると、自分が悪いわけでもないのにもうわけなくて、すっごくいたたまれなくなるけど……」


「ああッ神よ! こんなわかっていないやつに恋人などあたえず、どうかこのジャガーにドジっ子泣き虫クールビューティーツンデレで、さらにメシマズ属性ぞくせいのツルペタ金髪きんぱつロリの彼女を与えたまえッ!」


「ジャガーって、性癖せいへきかたよってるね……。その上、範囲はんいせまいようで広い」


「なにをいうッ! これでもまだかなり妥協だきょうしているんだぞッ!」


ミックスは、なぜ自分はこの男を友人にしているのかわからなくなっていた。


趣味しゅみ性格せいかくも、学校での話題わだいさえ合わない。


そんな合わないづくしだというのに、いつも一緒いっしょにいる。


同士どうしえんとはまこと不思議ふしぎなものだと、また眠たそうな顔にもどったジャガーの横顔よこがおを見て思う。


「でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


そして、ミックスが考えた結果けっか


つぶやくようにそう言い、いつものかわいた笑みをかべるのであった。


それからミックスがふと前を見てみると、前方ぜんぽうから学生服姿すがたの女子が二名こちらに向かって来ていた。


そのうちの一人は、これでもかというほどミックスへ大きく手をっている。


「せんぱ~い! いま帰りですか?」


「ああ、居残りでね。ウェディングもそうなの?」


二人の女子うちの一人の名はウェディング。


ミックスたちとはちがう学校だが、あることがきっかけで彼をしたうようになった中等部ちゅうとうぶの女子生徒せいとだ。


ウェディングが友だちとブラブラしていた答えると、ジャガーがミックスの肩に手をまわす。


そして、非常ひじょうひび低音ていおんでミックスに耳打みみうちをしてきた。


「おいミックス。お前……こないだいってたメシマズ彼女のほかにも、まさか女がいたのか?」


「なにを誤解ごかいしてんだよ!? ウェディングはただの後輩こうはいで、そのメシマズの子もただの友だちだよ!?」


「うるさいこのリアじゅうめッ! 爆発ばくはつしろッ!」


二人が言い合っていると、ウェディングがなぜかジャガーの顔をじっとのぞんでいた。


彼女はジャガーの顔を見て、何か思い出そうとしているような態度たいどだ。


「ジー」


「ん、なにかな~? まさかオレにれちゃったとか?」


「ジー」


「おいおい、初対面しょたいめんの男をそうジロジロ見るもんじゃないぜ。さすがのオレもずかしくなってきちまうだろ?」


「ジー」


ウェディングはジャガーが何を言おうが、彼のことを見続みつづけていた。


ジーと口にしながら見られ続け、さすがのジャガーもこまってしまっている。


しまいには、あせまで出て顔色かおいろも悪くなっていた。


「お兄さんはミックスせんぱいの同級生どうきゅうせいですか?」


「そ、そうだけど……それがどうしたのかなぁ~?」


「う~ん、お兄さんの顔ってどこかで見たことある気がするんですよね。しかもよ~く知っている感じぃ」


「ま、まあオレの顔って、よくいる顔っちゃよくいる顔だからなぁ~。そ、それじゃ邪魔者じゃまものはこのへんで帰ることするわ。また明日あしたなミックス」


ジャガーはそういうと、その場からありないほどのはやさで消えていった。


(げたなジャガー。お前もしょせんは俺と同じ男子高校生よ)


そんな彼の背中せなかを見たミックスは、何やらよくわからないがウェディングには――いや女の子にはジャガーでも勝てないとふかうなづくのであった。

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