#31

この人は悪い人間ではない。


むしろストリング帝国とバイオニクス共和国の被害者ひがいしゃなのではないか。


ミックスはそう思うと、ブロードと戦う気持ちがえていく。


「もう、こんなことは……我々われわれだいで終わりにしなければならない。共和国きょうわこく実験じっけんを終わらせるには、もはや戦争を起こすしかないのだ」


「そんなの間違まちがってるよッ!」


ブロードの話を聞き、うつむいていたミックスのうしろからジャズがさけぶ。


「たしかにブロード叔父おじさんのいうこともわかるよッ! 共和国がしたことはあたしもゆるせない……。だけど、そこまでしようと思った元々もともと理由りゆうは、大事だいじな人をうしないたくなかったからでしょッ!? それなのに戦争なんて起こしたら、もっと人が死んじゃうよッ!」


ジャズはゆっくりと前へ歩き出すと、ミックスのとなりならんだ。


「あたしはこの国へ来て知ったよ! 共和国の人間はい人たちだって! あたしがこまっているときに、何のとくもしないのに手をべてくれた……。だからあたしは、ミックスこいつもアミノさんのことも、ヘルキャットとアリア、そして叔父さんと同じくらい失いたくないッ!」


ジャズは必死ひっしに――まるでえるように言葉を続ける。


「おねがいッ! 戦争なんて起こさせないでッ! あたしから大切たいせつな人をうばわないでッ!」


「それは子どもの理屈りくつだな。しょせん帝国ていこくと共和国がこころかよわすなど不可能ふかのうだ。おれは自分の信念しんねんしたがうのみ……」


ブロードがそういうと、止まっていた人型ひとがた戦闘用せんとうようドローン――ナノクローンの集団しゅうだんが動き出した。


ナノクローンの集団はジャズをらえようと、彼女にその手を向ける。


だが、手をばした数体すうたいのナノクローンが突然とつぜんき飛ばされた。


「決めた……。いやちがうな。最初さいしょから決めてたんだった……」


ナノクローンを吹き飛ばしたのは――。


「俺はみんなが笑えあえるような、そんな終わり方にするって決めてたんだッ!」


マシーナリーウイルスにより身体からだ機械化きかいか――装甲アーマードされたミックスだ。


ミックスは萎えていた気持ちを、ふたたふるい立たせていた。


彼の気持ちを変えたのは、ジャズの言葉にほかならない。


自分やアミノのことをうしないたくない人間だといってくれた彼女のために――。


戦う理由なんてそれだけで十分じゅうぶんだ。


じっくりと深呼吸しんこきゅうをしたブロードはミックスの前に立つ。


「では、決着けっちゃくをつけるか、小僧こぞう


「もうまよわない! 俺は絶対ぜったいにあんたを止めるぞ。ブロード大佐たいさッ!」


ブロードはナノクローンの動きを止めると、ミックスにおそいかかった。


手首てくびに付けた腕輪ハングル――効果装置エフェクトで機械化させたこぶしにぎり、彼へとなぐりかかる。


ミックスもブロードと同じようにかまえ、両者りょうしゃの機械の拳がはげしくぶつかり合った。


その衝撃しょうげきすさまじい火花ひばなかぜき起こり、ちかくにいたジャズはき飛ばされてしまう。


「国のために自爆じばくテロなんて、あんたは脇役わきやくでいいのかッ!? そんな死んでやるくらいの気持ちがあるなら、もっとべつの戦い方を考えろよッ!」


「小僧にはわからん大人おとな事情じじょうがあるんだよッ!」


「なら俺にはわからなくていいよ。自己じこ犠牲ぎせいのつもりなのかなんなのか知らないけど、俺はそんなの全然ぜんぜんカッコいいと思わないぞッ!」


「いい格好かっこうを見せようとするだけでいのちけられるかッ!」


そして、その強烈きょうれつ衝突しょうとつの後、ミックスとブロードはもう再度さいど拳をぶつけ合う。


「死なないでくれって泣いて止めている人がいるのに、それでも死のうとするなよッ!」


ミックスの拳と受けたブロードの身体が地面じめんへとめりみ、機械化した腕と手首に付いた効果装置エフェクトにヒビが入る。


「やはりこいつッ!? 適合者てきごうしゃ合成種キメラちからをッ!?」


「いけぇぇぇッ! シャドォォォーッ!」


ミックスの拳はブロードを地面へとたたきつけ、彼の身体はその場にふかさった。

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