#30

ミックスの言葉を聞いたブロードがフンッとはなで笑う。


「ハッピーエンドだと? じゃあおれがこのまま帝国ていこくへ帰れば、貴様きさまがいうみなが笑って終われるということになるのか?」


「ああ、少なくとももうジャズが泣くことはないと思うけど」


「笑わせるなッ!」


すかした笑みをかべていたブロードがいきなり怒鳴どなりあげた。


効果装置エフェクト機械化きかいかさせたこぶしつよにぎりながら、ミックスのことをにらみつける。


「この共和国きょうわこくゆたかな科学かがく技術ぎじゅつはどこから手に入れたと思っているんだッ! 我々われわれストリング帝国からだぞッ!」


それからブロードははげしい感情かんじょうをあらわにした。


そして、今から七年前のアフタークロエからさらにむかしのことを話し出す。


コンピューターの暴走ぼうそうにより、合成種キメラと呼ばれる異形いぎょうの化け物があらわれ、文明ぶんめい社会しゃかい崩壊ほうかいした。


その後、何者かがコンピュータ―を止めることに成功せいこうしたが、世界は膨大ぼうだいな数の合成種キメラ荒廃こうはいした大地だいちおおいつくされる。


そんな中、わずかに生きのこった人々は国を作った。


その国々の中で、唯一ゆいいつ高度こうどな科学力を持っていたのがストリング帝国。


世界は帝国によって平和へいわになるはずだった。


だが、帝国のやり方にとなえる者――バイオという男を中心ちゅうしんに、はん帝国組織そしきバイオナンバーを結成けっせいされる。


はげしい戦争が続く中で帝国は優勢ゆうせいに戦いをすすめ、リーダーであったバイオは戦死せんしした。


その後さらに激化げきかする戦いの渦中かちゅうで、高度な知能ちのう特殊とくしゅ能力のうりょくを持つ合成種キメラを引き連れたコンピューターがふたたび現れ、ストリング帝国の皇帝こうていレコーディー·ストリングはこころざしなかばにしてたおれる。


その脅威きょういは世界中をおそい、もはや誰もが人類じんるいほろぼされると思っていた。


そのコンピューターから世界をすくったのが、のちにヴィンテージと呼ばれることとなるアン·テネシーグレッチたちだ。


だがその後に、先ほどいったアフタークロエが起こり、ストリング帝国はバイオナンバーからバイオニクス共和国へと名を変えた国にやぶれ、和平わへい協定きょうていむすばされ現在げんざいいたる。


「アリアからそれとなく聞いてるよ。でも、もう戦わなくていいなら、それほどいことはないじゃないか」


「良いことなどあるかッ! 貴様はバイオニクス共和国が我が国に何をしたか知らんからそう言えるのだッ!」


ブロードの話では――。


戦勝せんしょう国であるバイオニクス共和国は、ストリング帝国の科学技術を世界中の国へあたえるようになった。


そのから今までとみ独占どくせんしていた帝国はすたれ、今までその科学技術にたより、ろくに労働ろうどうをしたことがなかった国民こくみんくるしい思いをすることになる。


「でも、それは当然だよ! あたしたちの国はそれだけのことをしてきたんだッ! そこは受け入れなきゃいけない」


聞いていてこらえきれなくなったのか、ジャズが口をはさむ。


ブロードは、「たしかにそうだ」と彼女へ返事をした。


だがその表情ひょうじょうを見るに、とても納得なっとくがいっているようには見えない。


「お前の言う通りだ……。だがな、共和国はそれ以上のものを我々からうばったんだ」


強張こわばっていた表情から、かなしみにちた顔へと変わったブロード。


そして彼の口から、バイオニクス共和国のおそるべき真実しんじつかされた。


「さっき合成種キメラのことは話したな?」


「高度な知能ちのう特殊とくしゅ能力のうりょくを持ったやつだっけ……?」


「共和国はな。帝国に住むマシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃ候補こうほあつめさせ、合成種キメラとマシーナリーウイルスを組み合わせるための人体じんたい実験じっけんを始めたんだ」


バイオニクス共和国は、かつて合成種キメラ凌駕りょうがし、世界を恐怖きょうふおとしれた暴走コンピューターを倒したアン·テネシーグレッチをえる人間をつくろうと――。


すでにマシーナリーウイルスにおかされている帝国の住民じゅうみんを使って、適合者のちから合成種キメラの特殊能力を組み合わせた“神をも超える人間”を生み出そうとした。


「だが、実験は失敗しっぱいした。合成種キメラ細胞さいぼうがマシーナリーウイルスとざると、体内たいない拒否きょひ反応はんのうが出て、身体のあなという穴から血を流して死んでしまうからだ」


実験は中止になり、このことを隠蔽いんぺいするために関わった帝国の者たちは処分しょぶんされた。


その実験の被験者ひけんしゃの中には、ブロードのつまもいたそうだ。


それは彼の妻だけではない。


ストリング帝国の強硬派きょうこうはの多くが、その実験で大事だいじな人をころされている。


「我々の国は、過去に人道的じんどうてきなことをしてきたのかもしれない。だが、ストリング皇帝はそれでも自国の国民にも他国の国民にもをつけなかった」


かつてストリング帝国はたしかに世界を蹂躙じゅうりんしたが、それは合成種キメラによって荒廃した世界を変えたかったからだった。


そのために、ストリング皇帝は自国の者すべてにマシーナリーウイルスを注入ちゅうにゅうした。


その中で適合者になれた者は少なく、完全なる機械へと変わる者のほうが多く――。


ジャズやブロードのような全く変化のない者もいた。


ブロードは身をふるわせ、ミックスに向かって言う。


「ところが共和国のイカれた科学者たちは、俺たちだけにそれをいた。やはり人をべるさいのない者らが力を持つと、こういう結果けっかになるのだ!」


「ブロード大佐たいさ……」


ミックスは、ブロードの話を聞いているうちに、自分がどうしていいかわからなくなっていた。

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