#29

フラフラながらもインストガンをかまえるジャズ。


その姿すがたは、もはや満身まんしん創痍そういというよりも重症じゅうしょう患者かんじゃのようだった。


ブロードはそんな彼女を一瞥いちべつすると、すぐにを向けてアーティフィシャルタワーのほうへとあるき出す。


「待ちなさいよッ!」


「ジャズ、それ以上いじょううごくな。きずひびくぞ。いや、もうその心配しんぱいはいらんか」


ブロードへ向かって電磁波でんじはとうとしたジャズだったが、人型ひとがた戦闘せんとうドローン――ナノクローンの集団しゅうだんが彼女の目の前に立ちはだかる。


その三メートルはあるナノクローンにかこまれ、彼女はブロードを撃つこともうこともできなくなった。


しかし、それでもジャズはあきらめない。


インストガンで電磁波に撃ちながら、隙間すきまけてブロードを追いかけようとする。


敗北はいぼくを知る機会きかいだ。努力家どりょくか信念しんねんの強いお前なら、おれちがってこころれることもないだろう。これからいくらでも成長せいちょうできるさ」


「ブロード叔父おじさんッ! イヤッ! 死んじゃイヤだよぉぉぉッ!」


「さらばだ、ジャズ。お前のおとうとにもよろしく言っておいてくれ」


ブロードがおだやかな笑みをかべたとき。


突然彼のそばをナノクローンの巨体きょたいき飛ばされていった。


何故こんなことが?


ブロードはジャズにこんな真似まねができるはずもないと、うしろをかえってみると――。


「泣いてるめいっ子のいうことくらい、聞いてあげなよッ!」


そこには作業用さぎょうようジャケットを着た少年――ミックスの姿があった。


ミックスのうではすでに機械化きかいかしており、その装甲アーマードが顔の近くまでおおっている。


(ここまで力があるのか? やはり効果装置エフェクトでは適合者てきごうしゃほどのパワーは発揮はっきできないようだな。それと、あの重力じゅうりょく直接ちょくせつかけたような攻撃こうげきなぞけていない。油断ゆだんはできんな……)


振り返ったブロードはそう思うと、そのままミックスのもとへと歩き出した。


「そんなボロボロの身体でよく来たな、小僧こぞう。だが、能力のうりょくだよりの貴様きさまでは俺には勝てんと、こないだの戦闘せんとう理解りかいできなかったのか?」


「俺はただみんながこころから笑えるような終わりをむかえたいだけだよ」


ミックスは自分のほうへと歩いてくるブロードへ話を始めた。


前にアリアと話していたとき。


彼女が本気でジャズのことを好きなのがわかった。


そして、それと同じくらいヘルキャットも好きでしょうがないことも知った。


「それなのに、彼女たちがハッピーエンドならないのはおかしいだろ。おたがいのことを大事だいじおもいあっているのにさ」


「ああ、それには賛成さんせいする。安心あんしんするがいい。ジャズをふくめた三人にはこれから帝国ていこくへ帰す手筈てはずとなっている」


ブロードはそれからミックスへ説明せつめいをし出した。


ヘルキャットアリアに自爆じばくテロなどさせないこと。


二人をストリング帝国へ無事ぶじに帰すことを。


「これで貴様の心配はなくなっただろう。わかったら早く消えてくれ。こっちはもう時間がないんだ」


「ヘルキャットもアリアも死なないのはいいんだけどさ。じゃあ、なんでジャズが泣いてあんたを止めているんだよ」


ミックスはそう言いながら、こちらへ向かってくるブロードのところへ歩きだした。


「それはさ。やっぱジャズにとって、あんたも生きてなきゃハッピーエンドにならないからだろ」


そして二人は立ち止まり、互いの顔を突き合わせるのだった。

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